特別対談「新課程で英語教育はどう変わっていくのか」

特別対談「新課程で英語指導はどう変わっていくのか」

 「BRIDGE高校シリーズ」(高校学習準備教材)の今春行ったアンケート結果から,新課程では「大学入試がどう変わるのか」「言語活動の充実を授業にどう取り入れていくのか」について先生方の関心が強いことがわかりました。
 また,初期指導では「自主的・自律的生徒の育成」「学習スタイルの確立」「入学時の意欲の維持」について特に関心が強いことがわかりました。
 今回は,「大学入試がどう変わるか」「言語活動の充実」について,灘中学校・高等学校の木村達哉先生,東大寺学園高等学校の山原明先生に伺ったお話しをご紹介します。
新課程ではどのようなことに留意して授業を実践するか -言語活動の充実とは- 新課程では大学入試はどう変わるのか 生徒の自主自律,英語を学ぶ意欲を育てるために

新課程「気になること」「初期指導のポイント」アンケート結果報告


第一回:新課程ではどのようなことに留意して授業を実践するか -言語活動の充実とは-

新課程において,英語の指導法に変化はありますか?

東大寺学園高等学校、山原 明 東大寺学園高等学校 山原 明

山原
 言語活動の充実,特に英語で授業をしなければならないとか,いろいろと言われています。英語のコミュニケーション活動については教師が授業内で生徒に英語を使わせる,どんどん生徒に発音をさせていく,そういうアプローチの仕方が言語活動の充実になるのではないかと考えます。生徒たちにどんどん英語を口にしてほしいと思いますね。

灘中学校・高等学校、木村達哉 灘中学校・高等学校 木村 達哉

木村
 結局のところ,新課程と言いますが,文部科学省としてはグローバル人材を多く育成したいのだと思います。東京大学の学生に占める外国に留学する学生の割合の少なさに危機感を抱いているのではないでしょうか。なぜそのようなことになっているかと言うと,端的に言えば英語が使えないからです。例えば日本で災害があると海外の人たちはボランティアとしてすぐ日本に来てくれます。日本語を話すことができても,できなくても来てくれるのです。日本人は,確かに寄付はしますが,ボランティアとして海外に行く人は少数派です。「行かない」のではなくて「英語が話せないから行けない」のです。アメリカだけじゃなく,ヨーロッパへ行ってもインドへ行ってもアフリカへ行っても,どこへ行っても通用する人材を育成しないといけないですね。

例えばどのような英語の能力が必要なのでしょうか?

灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 読解力を例に出します。社会に出た時にクライアントから英語でメールが届いたとして,上司から「メールには何て書いてある?」と尋ねられたとします。その後に「取引中止のようです」「なぜ?」「コスト見直しのようです」「改めて連絡するとすぐ返事を送っておいて」「わかりました」と続くのが英語を読んでそれに対応する,経済界の普通の対応です。したがってこういった「読み,そして書く能力」が求められています。「何て書いてある?」「すみません。今プリントアウトして全部構造分析しているところです」というのは論外です。授業の中でグローバル人材とまで言えるかどうかわからないけれども,少なくともそのpreparationくらいはしておいてあげないといけないですね。

授業ではどのようなことを心がけていらっしゃいますか?

灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 例えば,ここに授業で使う東京大学の300語程度の要約問題があります。
 一般的な教え方,私たちが受けてきた教わり方だと"We are only born with so much natural rhythm and harmony……" という文章は,"We are only born"の"only"は副詞だからかっこでくくって,"with so much natural rhythm and harmony"の"so much"はここでは"natural rhythm"だけではなくて後ろの"harmony"にもかかる,というように,不必要なほど丁寧に読んでいくようなものでした。しかし,そのように教えられてきた生徒は社会に出てもそういう読み方しかできなくなります。
 「第一段落は,私たちは持って生まれたリズムとハーモニーを伸ばさないといけないのだけれども,それを伸ばすためには,意識を高く持つことだ,ということが書かれている。第二段落は,ペレとかモハメド・アリとか具体的に書いてあるけれども,それは単なる例を書いてあるだけだから,第一段落がわからなかった人は理解するために読もう。第三段落は……」みたいな「ざっくりした読み方」を授業で行わないと,制限時間内に読むことはできません。いきなり文章の構造分析をすると,作業することに必死になり文章の意味をつかむことに時間がかかります。模擬試験を解いたり入試問題を解いたりする時も,ざっくりと読むのではなく,いきなり構造分析から始める,という作業をしがちになります。
 東京大学の入試は「これだけの文章量を制限時間内で解答するのは無理だろう」というぐらいの単語数の長文を出し,その代わり単語は極力基本レベルに抑えるという傾向なので,ざっくりと読んでいかなければ制限時間内に読むことは厳しいでしょう。


東大寺学園高等学校、山原 明

山原
 「ざっくり」と言いますと,すごく「性格的にアバウトな人」のように思われるかもしれません。しかし私は,特に言語習得の時にはいい言葉だなと感じています。私は"ambiguity tolerance"「曖昧なものへの寛容さ」と表現しています。言語習得の時には曖昧なことをどんどん許していく,そんな気持ちも必要ではないかと感じています。文法の四択問題などには曖昧さがないじゃないですか。「これが正解」と答えが確実に導き出される。言葉は常に正しく聞き取り,発しないといけないと錯覚しがちですが,実は第二言語習得というものは,どんどん自分を通り過ぎていくものがあってもよくて,どこか頭の片隅に残っていくものだと思うんです。ですから,先ほどの「海外に行けない,行かない」というのも一緒だと思うのですが,100%理解しようとするから怖くなり,外国の方と話せない,となるのではないでしょうか。


新課程生の基礎学力を固めるには!BRIDGEシリーズ


具体的に,生徒さんの姿勢で感じたことがありますか?

東大寺学園高等学校、山原 明

山原
 私は,クリケットというスポーツの普及のために,スリランカやバヌアツに生徒の引率をしたことがあります。その時に,伝えたいという衝動に駆られて動く生徒は,ノリで話してみたら通じたということがありました。やはりその成功体験を,なるべく多くの生徒にさせてあげたいです。そうすると,「ああ,言葉っていうものは通じて楽しいものだ」と思うようになって,意欲や継続に繋がっていくのではないかと考えます。決して文法問題や文章の構造分析は必要ないということではなくて,四択問題に正解するだけというのは,成功体験でも何でもなくて,やはり現実に使っていくというのが,重要ではないかと考えます。

灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 まさにその通りですね。文法の知識はもちろん必要であり,重要です。しかし,文法の勉強というと,四つの選択肢から選ぶ方式の問題ができるようになることが「文法ができるようになった」と思いがちです。それなのに英作文をさせると全然できないということがよくあります。
"difference between A and B"の表現で言うと,"difference"や"between"を空所に入れることはできるのに,文を作ろうとすると"Uh, uh, do you have, do you have difference, uh, between A or B?"のように表現できないことがあります。
 四択だけでは文法の力は身につきません。話すこと,聞くこと,書くこと,読むことにおいて使える英語力,そのための単語力や文法力がまさに求められていると思います。

まさに今回の新課程ではそこが求められているのでしょうか?

灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 英語を勉強するということは,きちんと英語が聞けたり話せたりするようになることです。例えば,偏差値70や80の生徒が,近所の人に「そんなに英語が得意なんだったら英語を話してみて」と言われてなかなか話せない。そんなことで「英語ができる」と胸を張って言っていいのかなと思いますね。「あの,下線部訳や穴埋めや四択問題とかは得意なんですが,全然しゃべれないんですよ。その代わり文法は実は出来るんですよ」とか言われても,それは英語ができるとは言えないですよね。海外に行っても全然コミュニケーションがとれないし,企業に入っても全く戦力にならないわけで,そういう勉強の方法ではいけないのです。


東大寺学園高等学校、山原 明

山原
 英語を話すというその意欲を引き出してあげることが重要ですね。やはり生徒はみんな声に出すのが好きだと思います。どこかに,英語を話したい,話せるようになりたいという思いがあると思います。英語を口に出す場面をつくってあげると,勉強する意欲をキープできるのではないかなと思いますね。

英語を口にすることを既に実践されていますか?

木村
 教師側がせめて簡単な英語でいいから話してあげるというのも,いいのではないでしょうか。


具体的にはどのような活動をされていますか?

灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 授業の冒頭に,簡単な英語で話しています。全部英語で授業をするとなると,上位層の生徒はいいのですが下位層にとっては負担が増えますので今のところは行っていませんが,昨日の出来事などを授業の冒頭などで話すようにしています。
 例えば"I had a very pleasant drink with Mr.A, B and C. We went to a SUSHI restaurant in Sannomiya, right? We had a very good time but I have a little problem, now. That's I paid all the bills."すると生徒たちは笑います。"But I don't remember the fact I paid all the bills."そうすると生徒たちは言います。"How did you know that?" 僕が"I found the receipt in my purse."みたいな話を英語で話すと,生徒は笑って,「それはしょうがない,一番年上だから」などと,生徒全員ではないですが何人かが英語で話します。それで,"OK, off we go."と授業に入ります。

山原
 それぐらいの会話ならしてもいいのではないかと思いますね。


新課程生の基礎学力を固めるには!BRIDGEシリーズ


中学一年生の時から実践されているのですか?

灘中学校・高等学校、木村達哉、東大寺学園高等学校、山原 明

木村
 中学一年生の時は,日本語を交えながら「今日,暑いねぇ。It is very hot today.」のように話します。

山原
 それでだんだん日本語を少なくしていくわけですね。


灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 生徒たちの習得度が進むと,できることが増えてきます。そうすると自分のクラスのホームルームも,英語で行うことがあります。"There will be a lot of guests in the next Athletic Meet. So you should……"それで最後に"OK? Are you getting it?(わかった?)"生徒たちはうなずきます。「ところで肝心のyou should……のあと,きちんと聞き取れた? No problem? OK? じゃあ,See you tomorrow.」で終わります。山原先生がおっしゃったように,とりあえず,英語は話せるようになろうというメッセージを発信し続け,さらに授業中にできる限り,単語レベルから発音というか発言をさせてあげるようにしています。

木村
 また,生徒が遅刻してきた時には,"Please explain the reason you are late today."と聞きます。「日本語ですか?」と生徒が言うと"I don't understand Japanese now. Go ahead."と私は言います。生徒は"The train was delayed."と答えます。その後で"What time did you get up this morning? " "I got up this morning at about 8." "Oh, too late!"みたいなことを話します。そのうち生徒が"I'm very sorry, but I made great efforts on the train."のような発言をするようになり, "You made great efforts on the train?" "Yes. " "What did you do ? " "I kept running on the train."(笑)みたいな会話をします。そうすると,まわりの英語が話せないと思っている生徒も友達が話しているのを聞いて,「"on the train"でいいの? "in"はダメなの?」とか言うこともあります。話せる機会はいくらでも作れるので作ってあげた方がいいと思います。少なくとも英語に関しては,教師が解説を日本語で話し続けると生徒の意欲はどんどんそがれていくと思います。特に文法の授業は注意しないといけないですね。高校一年生の最初は,文法の授業が多くなりますし。


東大寺学園高等学校、山原 明

山原
 今の例で言うと"in the train"なのか"on the train"なのかということに対して,"in"とはこういうことだよ,"on"はこうですよというようなところは,先ほどの「曖昧な寛容さ」に繋がるところです。そこで"on"なのか"in"なのかを追求して,結論を出すのではなくて議題にすることは大切ですし,辞書を引いて研究することも大切ですが,会話においてそこに集中していると話せなくなります。だからそのあたりが"ambiguity tolerance"でいいのではないかなあと思います。ただし教養のある英語を話したいと思う生徒にはきちんと調べなさいと指導します。ただ通じる,コミュニケーションだけでいいのであれば,それでいいよ,という段階をしっかりと明示してあげないといけないですね。これじゃないと絶対ダメだというような,そういう押し付けが結構あるのではないかなと思います。

木村
 その通りですね。「ざっくり」というのは大事です。少なくとも大半の生徒たちは英語の研究者にはなりませんので。

山原
 そういうことですよね。


ではどのような視点で指導していけばよいと考えていらっしゃいますか?

灘中学校・高等学校、木村達哉

木村
 英語の教師は,生徒をどういうところへ連れて行ってあげようとするのかというゴール地点を常に意識しておかないと見誤ります。英語の研究者にしたいのか,経済界に入ったときに困らない英語力を身につけさせようとするのか,それとも何かを研究して世界中に発信する人間にしたいのか。そのうえでどのような表現・単語が必要なのかを教えてあげないといけません。政治家になるのであれば,こういう勉強をしないといけないということも教えてあげないといけない。最近では橋下さんの日本維新の会の結党について海外で流れたニュースを聞かせてみたり,エネルギー問題などの物理について,理系の生徒にしか理解できないような文章を聞かせたりもしています。彼らが英語の研究者になるのであれば,それはその時に,もっと詳しい英文法の本を必死になって勉強すればいいと思いますが。もっと話せる,あるいは聞けるようになるためのトレーニングをたくさんさせた方が英語力は伸びます。それがひいては大学入試にも対応できる力になると思うのです。

生徒さんの反応はいかがですか?

木村
 橋下さんが日本維新の会を創設した時のニュースを題材にしたリスニングの授業では,必死になって聞いていました。「restorationという単語が流れたんやけど,この文章ではどういう意味で使われていると思うか」と尋ねると,みんな電子辞書で調べて「維新かなあ。でもその単語には『大政奉還』という意味もありますね」なんて会話になりました。議論もできるし,単語も覚えられるし,リスニング力も伸びるし,英語に対する興味が持てます。

東大寺学園高等学校、山原 明

山原
 これが言語活動だと思います。教師が単に英語で授業するのではなく,このように生徒を主役にして活動させるのが今回の新課程での文部科学省の狙いだと思います。


新課程では,生徒を主役に,使える英語の習得を目指して,生徒たちにどんどん活動させることが大切だということですね。
どうもありがとうございました。


→「第二回:新課程では大学入試はどう変わるのか」を読む


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この度は,ラーンズリポートをご覧いただきありがとうございました。
木村先生、山原先生へのメッセージをお待ちしております。また新課程に向けての取り組みやご意見等ご自由にお寄せください。
今後こんな情報発信をしてほしい等のご要望もあわせてお待ちしております。
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