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【AL】研究会レポート「高校1年生の教科指導を考える」

大学の立場から高校生に求める生徒像・資質・能力の育成等について

【AL】研究会レポート「高校1年生の教科指導を考える」

研究会の概要
ラーンズ 研究会レポート Vol.014 アクティブ・ラーニング@岡山
ラーンズ マーケティング・営業部です。
2018年3月27日に岡山で「2018年度高校1年生の教科指導を考える」研究会を開催しました。
2020年度の教育・入試改革では,要求される学力が大きく変化すると予想されます。2018年度の新入生が最初の入試改革に該当する学年ということもあり,新入試を見据えた指導・育成の計画に苦慮されていると伺います。
本研究会では,先生方の悩みの解消のヒントに少しでもお役に立てればと考え,現場の第一線で実践・研究しておられる先生をお迎えし,現状の課題の解決につながる研究会を実施させていただきました。

研究会 テーマ
科学的な考え方の必要性について
科学的な考え方を必要とする背景
題材は身近にある



先生のプロフィール
先生のプロフィール

狩野 光伸(かの みつのぶ)先生
国立大学法人岡山大学 副理事。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科副研究科長・医薬品臨床評価学分野 教授。
日本学術会議連携会員・若手アカデミー会員(前副代表)。
著書に「論理的な考え方 伝え方:根拠に基づく正しい議論のために」(慶應義塾大学出版会),「学術の動向」(公益財団法人日本学術協力財団)編集委員。

科学的な考え方の必要性について

【AL】研究会レポート「高校1年生の教科指導を考える」

本日は「大学の立場から高校生に求める生徒像の育成・資質・能力の育成等について」というテーマを頂きました。少しこのテーマを私なりに翻訳して、「科学的な考え方の準備」ということでお話しします。

科学の考え方というのは、なぜこんなに大事に思われているのでしょうか。きっと、我々人間が、目の前にある困っていることを乗り越えるために、良い方法と思われたからではないか、と思います。 では、科学の考え方とはなんでしょうか。まとめれば、課題整理→問い→仮説→検証→吟味・共有という順に考え、その結果を発表し、さらに検証を重ねていくことです。 具体例で説明します。まず困っていることを質問の形に言い換えます。「どういう教え方が学生さんにはいいですか。」など。それに対して、仮説、つまり「こうじゃないでしょうか」ということを考えます。 この仮説は、たくさん考え付けば考え付くほどいいですが、そのうちのどれが一番真実に近いだろうかということを、証拠を集めながら考えるのです。その真実に近いと思われた仮説を公表して、より広い範囲の人たちで検証しながら、実際にも活用してみる、これが科学です。

もう少しヤマトコトバにしてみます。「困っていることは何ですか?」それが「課題」です。思っていた通りにならないので困っていますね、それに対して「どうしてそうなるの?」、「どうしたらいいの?」というのが「問い」です。それに対して、「こういうことかな」というのをいくつか思いつくというのが「仮説」です。その仮説が正しいというなら、その「わけ」は何だ。「わけ」が、証拠ですね。証拠は、説得されるかどうかを考え中の人たちが、すべて確認できる内容である必要があります。 こういう考え方のプロセスを大学に来た学生にしてみてもらうと、特に仮説について、ほとんどの学生が一つしか持って来ないことに気づかされます。なぜ一つしか持って来ないのか、ということを考えてみると、「正しい答えは一つである」という仮説を信じる教育を受けてきたのではないか、という気がします。しかし実際の世の中では、完ぺきな答えが一つだけ存在する、よりは、より正しい答えもあれば、より間違っている答えもある、置かれた条件によって何が正しいか何が正しくないか違う、のではないでしょうか。そのような頭を使える人が、まずは大学に入ってくれないと我々も困るし、それからそのあと社会に出たときに、答えはそれ一つですという生き方をしていて本当に大丈夫なのでしょうか。「それは心配ですよね」ということが、今回の入試改革の根底にある思いなのではと思います。

これらの科学的な考え方の中で、どの部分が「創造性」や「主体的な学び」に関係してくるでしょうか。これは案外どこのステップでも出すことが出来ます。普段の身近な疑問の中でも、要素分解を行うことができます。その要素の分解の仕方でも、創造性が発揮できます。どうしてそうなるのか、どうしたらいいのかということを連想することや、それをどうやって証明するかにも創造性が発揮できます。こういったことを1回も経験しないで高校を卒業してくると困ることもあり、このような考え方を経験してきてほしいというのが、大学セクターにいる人間としての思いです。


科学的な考え方を必要とする背景

【AL】研究会レポート「高校1年生の教科指導を考える」

日本では、西欧社会に比べて、科学的な考え方について少し詳しめに説明する必要があると考えています。なぜか。我々の育った東洋的な社会規範は、あなたと私は同じであるべきという特性であり、西洋的な社会規範は、あなたと私は違うべき、違うなら何が違うか説明せよ、となります(例えばアメリカの心理学者のリチャード・E・ニスベット(The Geography of Thought)による:東洋と西洋では、社会的規範が異なりそれが人間の認識方法の違いに関係するという)。科学的な考え方は西洋的な特性から来ており、「お互いが違うから説明し、どちらかの方法を選択するなら勝ち負けを決める必要がある」、そのときに、「主張内容の理由を磨いて勝ち負けを決めるのが良い」、という趣旨が根底にあります。

しかしながら、東洋的な社会規範を基盤とする日本で、西洋的な社会規範の考え方を練習したほうがいい時代になってきました。なぜ、そのようになったのか。過去、日本では、戦後復興があって、高度経済成長期があった、震災復興があった、誰かが方向を決めて同じ方向に一緒にやってきました。その結果として良い経済成長があり、そのまま頑張ってきたのですが、この2,30年経済が停滞してきたのはなぜでしょう。西洋的な文化圏から様々なものが入ってきて、そちらの方がお金になる時代になったからではないでしょうか。この時代に我々は何を変化したらいいか、これから50年あるいはそれ以上を生きる生徒たちに何を教えたらいいのか。私の考えとしては、科学的な考え方も出来る人にしておいたほうがいいのではないかと、本日は提案にしに参りました。

また、これに関連して作文教育にも触れたいと思います。なぜ、欧米的考え方では理由をつけるのが当たり前ととらえられているのか。 作文を書くときに、出来事の起きた順番に書いていくのが「時系列」式です。日本でよく見かけます。アメリカ式ではこのほかに、言いたいことをまず書き、それにふさわしい証拠を3つ並べて、もう一度言いたいこと繰り返しましょうという形式があります。5段落エッセイと言われる「説得文」です。もう一つの形式が「討議文」と訳したものです。イギリス、フランスではここまでやっています。この形式では、言いたいことを挙げた後、それにふさわしい証拠とふさわしくない証拠をそれぞれ挙げ、その末に、やはり言いたいことが結論としてよいのではないかということを考察して書く、という作文スタイルです。しかもそのスタイルを10歳前後からのカリキュラムで教えているのです。これら「説得文」「討議文」の形式は、まさにいわゆる論文のスタイルですね。

大学で研究室配属などの一環として、論文を書いてもらうことがありますが、この時に「時系列」スタイルで書いてしまう学生は少なくありません。結果として、何をしたのかはわかっても、その結果、何が言いたいのかよくわからないものが出来上がってしまうことが多いのです。それを、文化が違う、日本人はそういう考え方をしないから日本語では出来ないという仮説もたくさん聞きました。中国からの論文でもこのようなものを見かけることは少なくありません。しかし、この型を知ったうえで、母国語でやろうと思えば、出来るはずです。 例えば、今日、私は科学の考え方を高校生に教えるのが大事だと言いに来ました。その理由として、今まで様々なことを挙げました。その結果、科学を教えることは大事ということが言えれば、欧米型の作文スタイルになります。また、繰り返しになりますが、大学生になって論文を書かせて非常に困るのは、このタイプの作文に非常に慣れていないことです。母国語で出来ていないものが、英語でできるわけがありません。中身がないものを、言語を変換したところで、中身がないままです。英語技術の教育も結構ですが、中身をどうやって作るかがまず大事なのではないでしょうか。

考えてみると「あなたと私が同じ」であるべき間は、中身は必要ないでしょう。「同じ」なら、その中身を言語化するのはおかしな話になってしまいます。でも、そうではない人たちとコミュニケーションを取らせないといけないという認識ができたから、英語を学ばせているわけです。だったら、英語で話さなければいけない内容は、こういった作文スタイルが頭にあったうえで話さないといけないのではないでしょうか。


題材は身近にある

明治大正期の科学者である寺田寅彦のエッセイは有名なので、お読みになった方も多いと思います。この方が取り上げていた研究テーマは、興味深いです。彼が言っていたのは「題材は身近にある」ということです。「椿の花が落ちるときに、なぜあのような落ち方をするのか」、「墨流しをしたときに、面白い模様になる、なぜ、あのようなものになるのか」、「尺八の鳴りようは、なぜ、あのようになるのか」など。結局のところ、「課題」は何でも、研究の題材になるのです。

韓国の国際会議で、韓国はノーベル賞をまだ獲っていないので、ノーベル賞受賞者を招いて、どうやったらノーベル賞を獲れるか聞いていました。その時の返事の一つは「問い」です。他の人がしないような問いをたて、それを追っていくことによって、花開いたそうです。なに変な質問をしているんだということを、追い詰めていったら大事な「問い」だった、ということを言っている人がいました。

本質は、科学的な考え方であって、科学的な考え方の証拠を集められるか、そしてその証拠集めの駆動力である面白い問いがたてられるかということではないかと思うわけです。

以上、科学的な考え方を高校の時に準備しておくということが重要だ、という趣旨のお話をさせていただきました。ありがとうございました。


研究会の感想
ラーンズ マーケティング・営業部より
基調講演の最後に、「質疑応答」が重要とまとめられていました。
科学的な考え方へと変わっていく、その中で業務多忙な先生方が生徒一人一人の「問い」にどのよう向き合っていくかということも、お話を聞きながら考えさせられました。
だからこそ、アクティブ・ラーニングでお互いの意見を交換し合う必要性が生まれてくるのかとも感じています。また、アクティブ・ラーニングの中で、様々な「問い」に繋がるように授業を構成していくということは、これからの生徒を指導していく上でのとても良いヒントになったと感じています。様々な可能性を見せて頂き、とても多くのことを考えさせていただきました。大変貴重なご講演ありがとうございました。

※先生方のプロフィールは研究会当時のものです。


2018年5月14日 公開



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