生徒向け手帳型教材に関する調査分析から
はじめに
近年、学校における教育ツールとして、生徒向け手帳型教材が注目されています。生徒向け手帳型教材には、生徒の生活面や学習面の成長を助ける様々な仕掛けがあり、主に生徒の目標管理・時間管理の指導ツールとして使用されています。
この度、目標管理・時間管理の指導における生徒向け手帳型教材の導入状況や、効果について把握することを目的として、三菱総合研究所グループの調査会社であるエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社と株式会社ラーンズが、2016年6月に高等学校2906校に対してアンケートをご送付し、307校から回答をいただきました。
結果をキャリア教育やコミュニケーション力育成について実践と研究の両輪で取り組まれている岡山大学全学教育・学生支援機構 助教 中山芳一先生に分析いただきました。
株式会社ラーンズでは文部科学省が定義する学習ポートフォリオの支援ツールとして、生徒向け手帳型教材を開発しました。
学習ポートフォリオとは,学生が,学習過程ならびに各種の学習成果(例えば、学習目標・学習計画表とチェックシート、課題達成のために収集した資料や遂行状況、レポート、成績単位取得表など)を長期にわたって収集したもの。 それらを必要に応じて系統的に選択し,学習過程を含めて到達度を評価し,次に取り組むべき課題をみつけてステップアップを図っていくことを目的とすることを意味します。
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中山 芳一(なかやま よしかず)先生
岡山大学全学教育・学生支援機構 助教(教育方法学)。
初年次キャリア教育を岡山大学全1年生に提供。またコミュニケーション能力に関する授業や正課外(卒業要件に含まれない)活動支援にも注力している。
主な著書に『コミュニケーション実践入門—コミュニケーションカに磨きをかける』『大学生のためのキャリアデザインー大学生をどう生きるか』など多数。
タブレットよりも手書き
ラーンズ:
「生徒の目標管理、時間管理の指導用教材はどのような教材を使用していますか?」の回答状況から、何が読みとれるでしょうか?
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中山先生:
近年では、タブレット等のICT活用が盛んに導入される中で、目標管理・時間管理のための教材にもICTへの移行を求める声があります。しかし、実態としては「手帳型教材」の使用が圧倒的多数に及んでいることがわかります。これは、コンテンツに校則等を含めた、いわゆる生徒手帳のような役割を担っている点、活用上の手軽さが起因しているのではないかと考えられます。
さらに付け加えるとすれば、自ら手書きで記録するという行動は、目標管理・時間管理を意識化するためにも有効であり、使用状況が圧倒的多数に及んでいる実態は肯定的にとらえることができると思います。
記録の習慣化に期待
ラーンズ:
手帳型教材をお使いの方に「生徒の成長に関してどのような目的で手帳型教材を導入されましたか?」「その導入によりどのような効果が生じましたか?」とお聞きした回答状況から見えてくることをお聞かせください。
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中山先生:
生徒向け手帳型教材の導入目的で上位に位置づく項目を見ると、目標管理・時間管理への期待が高まっていることがわかります。さらに、「記録の習慣化」という項目も上位に位置づいています。また、手帳によって「メモや記録を取る習慣が身についた」という成果も上がっていることがわかります。この記録の習慣化は、学力の向上だけでなく社会人になる上でも重要であることは言うまでもありません。
また、上位には位置づいていないものの「振り返り」を導入目的としている点にも着目すべきでしょう。これは、手帳型教材が単にスケジュール管理にとどまるのではなく、振り返りまで活用できる可能性を示唆しているといえます。
生徒の生活状況を把握できる
ラーンズ:
「教育・指導、学校運営に関してどのような目的で手帳型教材を導入されましたか?」「その導入によりどのような効果が生じましたか?」とお聞きした回答状況からよにとれること、今後の教材としての手帳のありかたをお聞かせください。
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中山先生:
学習状況の把握や学習方法等の個別指導・アドバイスが上位を占める中、最も多かったのは「生徒の生活状況の把握」でした。この点については実際に手帳を活用することで「生徒の日常の生活状況が把握できるようになった」が最上位にある点とも関連付けられるのではないでしょうか。また、「生徒との交流の充実」に関しても比較的上位に位置づいています。
これらは、教員が教育・指導を行ううえで、手帳に対してスケジュール管理以上の期待を持っていることがわかり、今後の手帳のあり方の再考を示唆しているのではないでしょうか。
手帳を振り返りに活用
ラーンズ:
「手帳型教材の活用により生じる効果で魅力的だと思う効果はどれですか?」の回答状況をご覧になってのご感想、また活用におけるアドバイスがあればお願いいたします。
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中山先生:
「手帳型教材」は目標管理・時間管理を目的とした教材であるため、必然的に教員が魅力を感じるのは、「学習スケジュール作成の習慣化」や「時間管理能力の向上」にあることが明らかです。併せて、「記録の習慣化」も上位に位置づいています。
そしてここでも、さほど上位ではないものの「振り返り」に関する項目があることも見過ごせません。目標管理・時間管理は、「PDCAサイクル」におけるPLANの中で重要な役割を果たしていますが、このPLANをさらにサイクル化するためには、DOのあとでCHECKやACTをするための振り返りが必要です。というのも、計画とは過去の経験(振り返り)に基づいた未来への想像によって作られるものだからです。この結果の中で、「振り返り」にまで手帳の魅力が見出されていることは、手帳を通じて生徒たちの日常的なPDCAサイクルをよりよいものにしたいという期待が込められているのではないでしょうか。
だからこそポートフォリオ型手帳
ラーンズ:
それでは最後に本調査結果から見えてくることをお話しください。
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中山先生:
記録の習慣化、日々の振り返りを行うことで生徒たちは自分自身をメタ的に認知できるようになり、いままで以上に日常生活を充実させていくことができます。ひいては学力の向上やコミュニケーション能力などの非認知能力の向上につなげていくことができるでしょう。
だからこそ単なるスケジュール管理だけでなく、生徒自身の経験を振り返りによって蓄積していくことができる「ポートフォリオ型手帳」がお薦めです。ポートフォリオ型手帳が目指すところと、このたびの調査結果分析によって顕在化された教員の方々のニーズ、21世紀に生きる生徒たちの課題に一致しているのではないでしょうか。これから生徒たちに教材として手帳を導入するときには、このポートフォリオ型手帳が有効でしょう。
※先生のプロフィールはインタビュー当時のものです。
2017年3月24日 公開