【地歴】研究会レポート「高校教育・大学入試改革と世界史教育の未来」| 株式会社ラーンズ

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【地歴】研究会レポート「高校教育・大学入試改革と世界史教育の未来」

高校歴史科目の今後のありかた

【地歴】研究会レポート「高校教育・大学入試改革と世界史教育の未来」

研究会の概要
ラーンズ 研究会レポート Vol.010 地歴公民@東京
ラーンズ マーケティング・営業部です。
2017年9月2日に東京で「高校歴史科目の今後のありかた」と題する研究会を開催しました。教育改革,入試改革の検討が進むなかで,今後の歴史教育がどうあるべきかをテーマにお話いただきました。

研究会 テーマ
学習指導要領の改訂について
入試の変化



先生のプロフィール
先生のプロフィール

桃木 至朗先生
1955年,横浜市生まれ。
京都大学文学部卒業,同大学院文学研究科中退(東洋史学専攻)。1986年~88年,ベトナム・ハノイ大学実習生。京都大学東南アジア研究センター助手,大阪外国語大学タイ・ベトナム語科専任講師(ベトナム語・文化),大阪大学教養部助教授,同文学部助教授などを経て,2001年から大阪大学大学院文学研究科教授(世界史講座・東洋史学専門分野)。専門は,中世・近世のベトナム史を中心とする東南アジア史,東・東南アジアを中心として日本列島を含むアジア海域史,それを含むグローバルヒストリー。大阪大学出版会「市民のための世界史」を代表編集。

学習指導要領の改訂について

【地歴】研究会レポート「高校教育・大学入試改革と世界史教育の未来」

今回の学習指導要領の改訂において,歴史教育では「概念」がキーワードになるのではないでしょうか。つまり,事実の知識だけでは,充分な歴史教育ができないということが非常に強調されているのです。いままでであれば,論述問題で求められる,あるいは教科書の章などのまとめに書いてあるものが,獲得すべき知識です。今は用語集を参考にして,頻度の高い用語を選んで,それをどうやって並べて問題をつくるかということをしていますが,これからはそれを1回崩さなければなりません。従来の用語集の何がいけないかというと,まず用語が多すぎることです。そして,歴史を学ぶ際に必須な概念が,ごく一部しか用語として掲載されていない点です。概念がなくて,何年に何があったと覚えるだけでは,永遠に歴史像の理解には到達できないでしょう。


これからの歴史教科書

概念を教える時間をつくるために固有名詞などを大幅に減らすと,教科書も大きく変わるでしょう。教科書に本文だけでなく資料が入っており,それを基に生徒に考えさせる問いかけが入っている,これからはそういう教科書が要求されることになります。ですから,本文だけでは説明が足りません。だから本文に資料を追加で示すとか,教師がストーリーとして語ることが必要になります。どういう事項を組み立てて,プリントをつくったり,資料に載せたりするかというのは,教科書会社や先生方の知恵が問われているわけです。少なくとも最初の教科書検定では,この内容だけを覚えさせればよいというものにはならないのではないでしょうか。そして,入試は教科書の範囲の知識を問う出題からの変化を迫られているわけです。つまり,教科書が絶対の聖典ではなくなるということなのです。教科書は,教えるべき内容を過不足なく全部盛り込んだ聖典ではなくなるのではないかと思います。


入試の変化

これらをふまえて,入試にも変化が求められています。ものにはすべて唯一の正解があるという教育は根本的に間違っていると私は思います。正解の選択肢が複数あり,正解がいくつかわからないという設問もありうるでしょう。それから,小問同士が連動した出題ですね。連動させれば,嫌でもリード文を読むようになります。これらはマークシートでもできると思います。そして,見たことがない資料を出すということも重要です。見たことない資料を出して,それを既知の基礎知識,概念,考え方のパターンで類推して解答する能力を問うのです。


歴史的思考力をどう整理・提示するのか

「歴史的な思考力とは何ですか」という問いに対して,定式化・図式化して,みんなにわかるように示すという態度が,今までの歴史学者にはあまりに不足していたのではないかと思います。歴史なんて非論理的に言えば何だって言えてしまうのです。そこで,歴史の基本公式というものが,つまり,英語の基本構文だとか,囲碁,将棋の定石に当たるようなものがたくさんあるのではないかと思います。たとえば「ある事件の5W1Hは,それぞれ何を語るのかを定義しなければ説明できない」が基本公式として考えられます。そういったパターン思考なしで人は知識を求めることはできないのです。そういうものを歴史学でつくってこなかったので,歴史の基本公式集として提示できればと現在作業をしています。


研究会の感想
ラーンズ企画制作部 地歴公民編集課 小池育恵より
大阪大学文学研究科教授の桃木至朗先生にお話しをいただきました。先生の「歴史総合の開設や,新型入試の導入は,近代日本の歴史教育の仕組みを根本的に変えようとしている。
これは従来の延長上で対処する方法では絶対に実現できない」というお言葉から,今回の改革が,単に変化という言葉ではおさまらないものだということを改めて感じました。
今回のご講演で,今後の改革について,歴史的思考力とは何か,これからの教科書,これからの授業,そして,これからの入試がどのようになるかについて,それぞれ具体的にわかりやすくお話しいただき,大変勉強になりました。桃木先生,ありがとうございました。

※先生方のプロフィールは研究会当時のものです。


2017年11月24日 公開