Learn-S 指導事例【数学】思考のプロセスを重視した授業事例

PICK UP
新型コロナウイルス感染拡大の影響による学校課題と取り組み事例
読み解く!大学入試
ラーンズ主催 研究会情報


教科書供給所の方へ
ラーンズの多文化共生事業
Learn-S 指導事例【数学】思考のプロセスを重視した授業事例

Learn-S 指導事例 vol.001

毎回、各教科のスペシャリストを招いて、対談やインタビュー形式で、各校の指導事例や先生方の熱い声をお届けする、ラーンズの連載企画「Learn-S 指導事例」。

今の子どもたちが変化の激しい時代を生き抜くためには、思考力・判断力・表現力等の資質・能力を身につけていくことが大切だと言われています。今回は、以前より数学科の探究的な指導を実践されている東京学芸大学附属国際中等教育学校の小林廉先生に、生徒が資質・能力を育むための授業における探究活動の意義についてお話を伺いました。

小林 廉先生
東京学芸大学附属国際中等教育学校 教諭。
国立教育政策研究所教育課程研究センター学力調査官(非常勤)を経て、2008年4月より現職。
2015年に東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(博士課程)修了。博士(教育学)。平成27年度高等学校学習指導要領実施状況調査問題作成委員会、同調査結果分析委員会委員。2017年、読売教育賞優秀賞。2018年・2020年、日本数学教育学会学会賞(実践研究部門)。

01. 数学における探究授業実践例

数学における探究授業とは

ラーンズ編集部
現在先生の学校ではどのようなご指導をされていますでしょうか。
小林先生
本校は附属学校なので、研究してきていることを広く還元していきたいという想いがあります。まずは、次期学習指導要領が定められる際の基礎資料となった次の図についてお話したいと思います。今回、文部科学省教育課程部会算数・数学ワーキンググループによって、この図にある過程を遂行することが「数学的活動」と規定されましたが、この趣旨は数学教育研究ではずっと大切にされてきたことで、これをきちんと実践したいという想いがあります。この活動が「数学を学ぶ」ということであって、算数・数学における問題発見・解決の過程を通して数学科として育成すべき資質・能力が養われていくと考えています。

出典:文部科学省 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループより

小林先生
数学の指導を「活動としての数学」と「結果としての数学」に分けたとき、「活動としての数学」(図の青と赤のサイクル)をしっかり授業で実践したいと考えています。
また、「活動としての数学」を行う際に、そのための教材を個人で探したり作ったりするのはなかなか難しいことから、本校では独自のテキスト(『TGUISS数学』)を作っています。例えば、数学Ⅱの「図形と方程式」の教材として「東京タワーとスカイツリーが同じ高さに見える位置は?」という探究課題を用意しています。結果的にはアポロニウスの円が出てくるんですけど、アポロニウスの円を学んでからこの探究をするのではなく、それを知らない状態でこの探究に臨みながら軌跡の手法も身につけていって、結果的にアポロニウスの円という知識が得られるスタイルになっています。これは一例ですが、このように事象から入っていくような授業をしています。
ラーンズ編集部
そういう題材を探して作り上げるのはなかなか大変ではないでしょうか?
小林先生
大変は大変です。現在も定期的に研究会を開催してテキストを作っています。一番はじめはアメリカの教科書を分析しました。アメリカの教科書の中には、もともと現象の探究から入っていって数学の内容を見いだしていくというものがあり、それを元ネタに作りました。

探究授業による効果

ラーンズ編集部
教科書を確認しながら進めていく指導ではなく、探究的な授業を多く取り入れることによって良かったことがあれば教えていただけますか?
小林先生
一番大きいのが、探究課題から授業に入り、常に生徒自身が考えることから始めていくので、「生徒がよく考える」のは事実としてあります。他校の例で、普段の授業では先生から教えられてそれを真似することに慣れていて、いきなり「こういう課題を考えてみなさい。」と提示されても、自分で考えられないという話を聞きました。また、別の学校の例では、入学したての高校1年生が一番よく考えてくれるのですが、そこからずっと先生が教え込んでいくので、「高校2年生くらいになると、自分で考えること自体が面倒くさくなってしまっている。」と嘆いてらっしゃる先生がいました。これはとても怖いことだなと思っています。

それと、生徒は自分の考えを書けるようになっていて、例えば中3の全国学力・学習状況調査の記述式では無答率がものすごく低い。なんらかは書いて頑張ろうとしているというのはデータとしても出ています。

ラーンズ編集部
逆に、探究的な授業を多く取り入れることによる弊害などはありますか?
小林先生
先ほどの教科書の話とも関わりますが、こういうことをやると当然時間がものすごくかかるんですよ。例えば先ほどのスカイツリーの探究では5時間くらいかけます(最後に検証動画を見せる時間を含めて)。それはもちろん、「なぜ?」を大事にして、「結果としての数学」もしっかり理解できるようにしているからでもあります。ただ、技能面の習熟を図る時間はそう多くはとれなくなります。ですから、中1の段階から、問題演習というものは基本的には自分でやるものだと伝えています。そこで大切なことは、自分で勉強するときの取り組み方を指導することだと思っています。ただやりなさいと伝えるのではなく。例えば問題集への取り組み方を明示するようにしています。それでもやらない生徒がいるのは事実ですし、探究活動により興味をもってくれる生徒が多い一方で、技能面で苦労する生徒がいるのも事実ですが。どうしてもある程度トレードオフの関係にはありますね。
ラーンズ編集部
探究活動に興味をもつ生徒は教科や学年によらず育まれているのでしょうか?
小林先生
育まれていると感じます。学校全体でそういう文化を創っていく必要があると思いますね。例えば、ある学年では生徒に教え込む指導をしていて、次の学年で急に「さあ考えよう」と言っても生徒がどう考えればよいのかわからないので、最初が大事だと思います。また、どの教員も探究活動の趣旨を理解していて、細かいやり方の部分は先生どうしで異なっていても、大きな方針としてブレていないという状態が大事だと思います。そうすることで、生徒は考えることから始める。その後のフォローの仕方が生徒のレベルによって変わってくるのかなというところですね。

プロセスを重視することで伸ばせる資質・能力

ラーンズ編集部
現実事象以外の例(上図の赤いサイクル)で他に例はありますか。例えばパズル問題とか。
小林先生
私はパズル的なものはあまり多く扱ってないですね。
やっている例としては、中1の最初には小学校の算数からの接続を考えて、「九九表に潜む規則性を探ろう!」というのをやります。本当にたくさんの規則性が出てきますが、その中である生徒が、2×2の正方形で囲まれた4つの数の斜めどうしの「和」に潜む規則性を発表しました。するとそれを見た別の生徒が、今度は斜めどうしの「積」に着目して新たな規則性を見つけて発表しました。授業後には、例えば図のような感想が出てきました。このように「発展的に考える」ことの指導と、集団授業の意義を伝えることをこの1つの教材でできます。また、ある生徒は1から81までの整数の中で九九表にない整数を洗い出してきました。九九表にない整数を分析しようとすると、自然と素因数分解の発想に行きつきます。
ラーンズ編集部
問題発見・解決の過程をモデル化する部分は、生徒が身につけることを求めているのでしょうか?
小林先生
これはタイミングが難しいと感じています。ぐるぐる図(青や赤のサイクル)を指導の最初に見せるか後に見せるか。例えば、スカイツリーの問題が解決したあとに、生徒が活動してきたことをぐるぐる図に位置付けてプロセス(問題発見・解決の過程)をたどれるようなことはしています(下の図)。この課題に限らずやっていますね。つねにきちんと図に当てはめることができるわけではないですし、サイクルを何周か回る場合もありますが、振り返ることでプロセスを意識化させることはやっています。

出典:文部科学省 教育課程部会 算数・数学ワーキンググループより

(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編 にも同様の図が掲載されている)

小林先生
中学生でも、しばらくすると生徒の振り返りに自然とこういったプロセスが出てきます。例えば、中2の授業で「スカイツリーと東京タワーがちょうど重なってみえる場所はどこか」という探究課題を扱ったときに、最初は絵で描かれていたものが線分で書かれるようになって、視線も線分として書き入れられることで、図形としてとらえられ、数学的に解決が進むことを経験しました。
小林先生
そのときの生徒の振り返りで「1つめは問題の状況を単純にして書いてみるということ。2つめはその発見から答えを出すこと。最後にその出した答えを実物に戻してしっかり確かめるということ。」というのがありました(下の図)。ぐるぐる図を見せていない段階ですがプロセスに関する振り返りが自然と出てきました。そして、観察者の位置を点としてタワーを線分として、さらに視線を線分として結んだときに直角三角形で表現できるから数学的に解決できるようになったことを価値付ける。図形としてとらえたからこそ話が進んだんだということの意識化を促すことで、モデル化を徐々に自分でできるようになっていくのだと思います。

02. 探究活動に対する現状

探究活動における評価方法

ラーンズ編集部
探究活動における評価はどのようにされていますか?
小林先生
本校はIB校(国際バカロレア認定校)で、4年(高1)までは全員がMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)の対象です(ディプロマ・プログラム(DP)対象の生徒は高2・高3の一部です)。MYPの数学では、「実生活への応用」という目標および評価の観点があります。テストには、モデル化に関わるような問題を入れています。また、現実事象だけでなく、数学事象の探究問題も入れています。それ以外にもパフォーマンス評価といって、レポート課題を提出させています。また、レポート課題を課すときにはその評価規準(ルーブリック)を同時に示しています。
ラーンズ編集部
友達のレポートを写したりする子はいないですか?
小林先生
いないとも言い切れないかもしれませんが、中1から学問的誠実性といって、例えば「引用することはちゃんと引用しよう」とか「剽窃(ひょうせつ)は絶対にしない」という指導をずっとやっています。また、高1からはレポートテストと呼んでいるものを行っています(授業時間内にすべて持ち込み可で個人の力で解くというもの)。他にも、そもそも写すことに意味がないような評価課題として、答えが一通りではないようなオープンエンドの課題(例えばいろいろな関数のグラフとその移動を活かして各自がグラフアートを作成するという課題)を出すようにしています。

※生徒がGeoGebraで作成したグラフアートの一例(「数学者カントール」)

学校現場で大切にしたいこと

ラーンズ編集部
新課程になると探究学習を取り入れる先生が増えるのではないかと思いますが、探究活動の場面を普段の授業に取り入れるときに意識した方がよい点はありますか。
小林先生
変わりたいと考えている学校は実は多いのではと思います。本校に訪問された先生方からいろいろと質問を伺ってお答えする機会も結構あります。そのとき、学校としての制約が強い場合が多いと感じます。この時期までにはこの範囲を進めないといけないとか。また、あるクラスのある先生だけ探究活動をして他のクラスは全然違うことをしているとかだと意味がない。自分としては探究活動をやりたいのに横並びを考えるとできないという現実があります。教科全体、学校全体としてシフトしていかないと難しいのではないでしょうか。
そのときに目指すべき指導観とか生徒の学習観が一番大事になると思います。やっぱり生徒からすると、なぜそうなるのかとか、この数学は何に使えるのかとか、何が面白いんだという部分ですね。そういうところを大事にしていきたいという指導観です。数学の勉強は、良いものを真似してやっていくというのも大事ですが、やはり本人が課題に挑戦して数学の面白さを実感することが大事なので。探究活動に興味がない教員は、そもそも教員は模範を示し生徒はそれを真似するものだという指導観、あるいは数学というものは生徒が創っていくことなんてできないという数学教育観があるんだろうと思います。そこを変えていく必要がある。教員の指導観、生徒の学習観の部分についてアンテナの感度が高い先生が本校で扱っているテキストに反応してくれています。

探究活動を実践する環境と教材

ラーンズ編集部
附属という学校の性格上、いろいろな試みも出来ますし、探究活動もしやすいと思います。様々な生徒がいる一般的な学校でこういう指導を実践していくときに、何かヒントになるようなものはありますか?
小林先生
そうですね。附属という立場は意識していて、かなり恵まれた環境にいるからこそやれているという自覚はあります。ちなみに本校には多様な背景を持った生徒たちが入学するので、生徒の数学のレベルはかなりバラバラです。ただ、比較的前向きな子たちが多いのは事実なので、そこの地盤はやはりあると感じています。私の役割としては、「本校の生徒の場合は、こういう風に思考して、こういう授業になる」という実態を見せることかなと思っています。
アドバイスを言えるほどではないですが、今の中学校の教科書は、探究活動にシフトしてきていて、考えるところから始めるようなスタイルに基本的にはなっているんですよね。
算数からそうなんですけど、いわゆる問題解決型の授業で、最初に課題があって、それを自力でまず考えて、次に協働的に考えてクラスで練り上げるスタイルですよね。それで小学校は結果も出ているので、やはり意味があると思うんですよ。中学校でも問題解決型の授業スタイルがあるんですけど(日本の問題解決型の授業が世界的に注目されたのは中学校の数学授業の国際比較研究が発端です)、高校になると止まってしまうのがすごいもったいないなと。だからやっぱり高校、難しさはあると思うんですけど、その生徒に適したレベルっていうんですかね、教員から一方的じゃなく生徒の考えに則った授業ができるといいなと思っています。生徒は基本的にわかりたいと思っていると思うんですよね、「なぜ」かを含めて。できるようになりたいし、わかりたいと思っているので。小学校、中学校ときてせっかく生徒が考えるようになってきてるのに、そこを止めないようにしたいですね。それと、これから高校の教科書で変わっていくものもあると思います。実は、今でもいわゆる苦手層向けの教科書があるじゃないですか、あれって結構面白い教材が最初に載っていたりするんですよね。いきなり定義の説明から入るんじゃなくて。まずこういうシチュエーションがあって、みたいな。探究活動をしていく例として参考になるのではないかと思っています。そういう風にネタを仕入れていけるといいかなと思います。

共通テストと探究活動の関連性

ラーンズ編集部
共通テストでは探究活動の場面が設定される出題が予想されます。入試を変えることで授業を変えるというメッセージだと思いますが、一方でテストには制限時間内に解くという制約があります。それについてはどうお考えでしょうか?
小林先生
世の中には教育を変えるために入試を変えることは邪道だという意見もあり、その考えも理解できます。一方で、実際高校では先生が一方的な指導をしている現状が多く見られます。先生と生徒個人とのやり取りはありますが、そのとき他の生徒は問題集を解いているなどという現状を見ていると、共通テストのようなカンフル剤的なもので授業を変えていくというのは、個人的には一つの手かなというか、こうでもしないとなかなか変わらないんじゃないかという思いはあります。共通テストで見たい力は、もちろん知識・技能はあるんですけど、数学的に考える力でもあるはずです。そこが機能してくれるのは嬉しいと思っています。どうしてもテストなので限界はありますが、良い問題さえできれば、そこで力を発揮できる生徒もいると思います。またそういう生徒が入試で終わりではなくて今後も数学に関わって欲しいなという期待もあります。
ラーンズ編集部
良い問題とありましたが、小林先生にとって良い問題とは?
小林先生
なかなか難しい質問ですけど、良い評価問題というのはオープンエンドになる傾向はあります。テストだとどうしても採点のことがあるので、この制約が本当に難しいなと思いますね。簡単にいうと記述式で生徒の考えを見れるのが一番だと思いますが…個人的に良い評価問題というのは、生徒が面白いと感じて取り組んでくれて、その結果生徒がその問題をこういう風にとらえているんだな、というのを教員側がわかり、結果的に資質・能力の実態を評価できる問題だと思っていて。でも50万人規模のテストだと難しいですよね。

03. 今後に向けて

どんなクラスでも探究活動はできる

ラーンズ編集部
探究の授業をするにあたっても、最低限の知識・技能は必要だと考えています。例えば高1でしたら、探究授業をするにあたり、必要最低限の知識・技能というものは、どのあたりなのでしょうか。
小林先生
難しいですね。もちろん既習事項が前提にあります。探究では今までの既習事項をフル活用して取り組みます。つまり特定の事項を応用することがわかっていてそれを応用するのは、本当の意味で応用する力を身につける授業なのかと疑問です。何を使うのかわからない状況で、自分の知識をフル活用して取り組んでいくじゃないですか、世の中の問題では。
例えば、中学校でやった内容とかを忘れていてもいいと思うんですよ、呼び起こすことができれば。すぐに呼び出せていろんな引き出しがあって、結び付けられるっていうのがすごくできる子だと思うんですけど、そうじゃなくても思い出してちゃんとそこで「あ~」となれば、それでいいと思います。本当に最低限出来てほしいと思うのは、それこそ、文字式の計算だとか、中学校レベルの。そこはできないと高校はきついなと思います。最低限の知識と言われるとなかなか難しいですけど、分野にもよるかなと思います。
ラーンズ編集部
知識・技能は足りていないけれど、探究活動には前向きみたいな、そういう生徒さんも多くおられるということですかね。
小林先生
そうですね。本校の後期課程は習熟度別にクラスを展開していますが、得意クラスと苦手クラスで全く同じ授業展開はしないですし、苦手クラスで複雑な探究課題を同じようにできるかっていうとなかなかそういうわけじゃない。ですが、生徒の実態に合わせて、苦手な生徒だったら少しでも考えやすいような、だけど探究課題から始めるっていうスタイルは崩さずにやっていますね。
小林先生
それで授業をしていると見えてくるじゃないですか、どこで生徒が困っているのかが。例えば、生徒が自力で解決してる間に机間巡視すると、ここで困るのかというのが見えてくるので、そこで内容をフォローしていくような感じですよね。例えばベクトルの内積でいうと、私は今年度は苦手クラスを持っているのですが、内積を定義することから始めるのではなく、三角形をなす二つのベクトルの成分が与えられているときに、その間の角を求めたい、あるいは面積を求めたい、そこでベクトルを使うと計量ができるようになるんだよ、ということから始めていって、それを一般化してまとめていくと、いわゆるa1b1+a2b2っていう式が出てきて、これを使うとcosθが余弦定理を使わずにあっさり出るので、それは数学的に嬉しいよね、だからこれを内積と名付けよう、と進めます。そしてその過程で見えてくるのは、やっぱりcosθ自体の理解が不十分であり、三角比のところで困っている実態が見えてくるじゃないですか。そうすると、そこでもう一回cosの復習にいったりだとか。
あるいは得意クラスであれば、そこで一般化してcosも三角形の面積もそうですけど結構文字がすごい多くて、それこそさっきの文字式の運用が問われるんですよね。得意クラスであればそこはきっちり一般化したあとに、ほんとにこんな簡単な式になるのかというところで、やるわけなんですけど。
ラーンズ編集部
現実問題として、生徒が高校3年生になれば、1年後に入試があります。探究活動の授業から入試過去問を演習する授業への切り替えなどがあるのでしょうか、それとも入試指導もある意味独自性のある指導をされるのでしょうか。
小林先生
本校もさすがに高3になると、数学Ⅲ以外に数学特講という授業を設けているんですけど、要するに入試問題を解きます。その時間も、授業者のスタイルによるんですけど、例えば問題を生徒に割り当てて、生徒が解いてみんなにプレゼンするようなゼミスタイルなどを行っています。私は、こういう入試問題でも問題解決型の授業をできると思っています。要はみんなで同じ問題をまずは自力で考えると、そこで生徒から出てくるのは模範解答だけじゃないんですよね。全然違う解法とかも出てきて、そっちの方がときには応用性があったりする。そういう意味ではそこのプロセスを生徒から出して、生徒の考えから解決へ至っていく、というスタイルで今年はやっています。

今後の目標

ラーンズ編集部
先生、長時間ありがとうございました。最後に今後の課題といいますか、先生ご自身の研究テーマとか、こういうことに取り組んでいきたいという思いなどがあればお聞かせください。
小林先生
大きく二つあります。一つは生徒が数学に対して何を考えて、どう取り組んで、そこで本当は何を思ってやっていたのかっていうのを明らかにしていきたいと思っています。そのためには生徒の考えるプロセスがちゃんと出てくるような授業をやらないといけないと思うんです。なので、先ほどの生徒の振り返りもそうなんですけど、ああいうのがどこから出てくるのかなって思っていて。いかにそこを明らかにするか、そういうのが一つはやりたいことですね。数学を創っていくところで生徒は本当は何を考えているのかってことです。
もう一つは世の中の現象を数学的に見て、なんらか判断していく一つの眼を持ってほしいなっていう想いがあります。判断に迫られるとき、これは数学の問題だよとは誰も言ってくれないわけじゃないですか。自分でそれを数学の眼で見て判断していく必要があるわけです。例えば、数学Aの確率で検査の問題というのがあるじゃないですか。ある病気の検査で陽性とは出るんだけど、本当に感染している確率は実は小さいという問題。今年、数Aの確率をちょうど受け持っていたので、そのときに、PCR検査を大規模に行うべきかどうかという問いを出しました。そのときに、数学的にみると、偽陽性と偽陰性の問題があって、それの何が問題かっていうと、「陽性だけども、本当は感染していない」確率が、条件にもよりますが、場合によっては10%くらい出るわけなんですよね。陽性者のうち約10%の人たちは、本当は感染していないのに陽性と判定されてしまうと。そうすると隔離などされて不当に自由を奪われるので、人権の問題につながってくるわけじゃないですか。ここで、数学の問題に人権という視点を持ってこられるかという。それは、中学校社会科の公民の学習が生きているかですね、「現代社会の見方・考え方」が効いてくるんですよね。このようにして、いろんな教科が協働して、例えば同じ現象をいろんな教科で扱ってみるとか、いろんな見方・考え方を、同じ概念を別の教科でやるとどうなるかとかですね、なにかそういうことをやって、将来的に生徒が、いろんな眼で現象を見て、判断していってほしいですね。数学の授業ですので基本的には数学で見るんだけど、他の観点も入ってくるようなことも取り入れて判断していくことを、これからはやりたいし、やっていくべきなんだろうと思っています。本校を卒業した後のことまでを考えると。結構大きな話なんですけね。
ラーンズ編集部
まさに探究学習、社会人としてそうありたいと思います。
小林先生
私も全然できなくて、だから必死で中学校の社会の教科書で勉強したりとか、理科と協働するときは、去年は物理の教員と協働して教科横断的に授業をやったんですけど、私が物理の教科書でひたすら勉強するとかですね、こっちがなかなかいっぱいいっぱいなんですけど。でもそうすると、いまの物理の教科書ってすごく詳しく面白く書かれてあるなとか、社会の教科書もちゃんと「対立と合意」や「公正と効率」ということが書いてあって勉強になる。こういうことちゃんとやってるんだな、ということに気づくというか、それを知らずに数学だけでやっていてはダメなんですよね、生徒の中にはそれが本来繋がっていかないといけないわけなので。そういうことをやっていきたいなという大きな目標はありますね。

※東京学芸大学附属国際中等教育学校 小林廉教諭

学校紹介

東京学芸大学附属国際中等教育学校
前身の東京学芸大学附属大泉中学校と同附属高等学校大泉校舎を統合・再編して2007年に開校。国公立学校初の国際バカロレア(IB)認定校。2014年よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校(現在2期目)。2019年度までスーパーグローバルハイスクール(SGH)指定校,2020年度よりワールドワイドラーニングコンソーシアム(WWL)事業連携校。ユネスコスクール加盟校。多様で異なる人々と共生・共存でき,進展する内外の国際化の中で活躍する力を持った生徒を育てるため,特色ある外国語教育ならびに国際理解教育はもちろんのこと,全教科で探究的・主体的な学習を重視した授業を実施している。

編集後記

数学編集
森本

高校を卒業して5年、10年と経ち……あのとき学んだことがどれくらい身についていてどれくらい役に立っているのか?と問われると、高校だけでなく大学や社会人になってから学んだことであったり、学校外の活動を通して学んだことの方が多いかもしれません。それでも高校時代の授業時間がとても長く感じたのは覚えています。その授業時間の積み重ねが今の私の思考パターンに影響を与えていると思います。
今回の取材で学校生活で身につけたことを、その後のよりよい人生を送っていくことにつなげてほしいという先生の想いを強く感じました。快く取材にご協力いただいた小林先生に感謝申し上げます。

ラーンズ編集部から
日常の事象や数学の事象から入っていく分野別の題材で構成されている「キミが学びを深める数学I・A」/「キミが学びを深める数学Ⅱ・B」は、興味をもって課題に取り組みながら自ら考える力を身につけ、活動を通して何がどこまでできたかをふり返るチェックシートがあり、授業で毎月1回程度探究活動をされる先生にオススメの教材です。

2020年8月 取材
2020年9月18日 公開


『Think and Quest(探究型教材)数学』