指導事例【地歴公民】本質的な理解に到達する「知識構成型ジグソー法」の授業事例(世界史)

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本質的な理解に到達する「知識構成型ジグソー法」の授業事例(世界史)

指導事例 vol.017

さまざまな学校課題や指導テーマに対して指導を工夫されている先生方に取材を行い、その実践をご紹介する連載企画「指導事例」。

今の子どもたちが変化の激しい時代を生き抜くためには、思考力・判断力・表現力等の資質・能力を身につけていくことが大切だと言われています。今回は、世界史で「知識構成型ジグソー法」を用いた指導を実践されている埼玉県立与野高等学校の武井寛太先生に、世界史の指導で求められる力と、それを身につけるための授業実践についてお話をうかがいました。

武井 寛太先生
埼玉県立与野高等学校 教諭。
2014年に埼玉県の高校教諭として採用され、2018年より現任校に着任。2014年より埼玉県教育委員会と東京大学CoREFが提携して開催する研修である「未来を拓く『学び』プロジェクト」(当時「未来を拓く『学び』推進事業)の研究開発員を務められ、知識構成型ジグソー法を基にした授業研究に取り組まれる。2017年にはマイスター認定教員に任じられる。
主な執筆に、山川出版『デジタル指導書』のPowerPoint教材、「『山川デジタル歴史地図』を活用した授業の試み」(『歴史と地理 世界史の研究』山川出版、260、2019)、などがある。

01. 世界史における探究授業実践例

単元を貫く本質的な問い(エッセンシャルクエスチョン)の提示

進行役
世界史の授業においてどのようなご指導をされていますか。
武井先生
現在、3年生と1年生の世界史を担当しています。どちらも授業目標を2つ決めていて、1つが概念的に理解すること、もう1つが歴史的思考力を身につけること。内容はかなり精選して扱っています。授業ではその目標を達成するために、史資料を読み解いたり、問いに対して自らの考察を記述したりするような学習活動を設けています。
進行役
1つの単元(2~3時間)におけるおおまかな授業の流れを教えてください。
武井先生
まず単元の冒頭で、単元を貫く本質的な問い(エッセンシャルクエスチョン;EQ)を提示します。
例えば、「現代の国民国家や民主主義社会の形成過程には、どのような問題が生じたと考えられますか」などです。これを提示したうえで、単元学習シートを配布しています。

単元の学習前に、事前の予想・意見を生徒に記述させます。その後、1時間ごとに1つの枠を設けて、授業の最後の5分間でその日の授業のまとめを書かせます。

各授業は、教科書に即しながら1時間に1テーマを設けて行っています。例えば、ドイツとイタリアの統一を扱う授業では、エッセンシャルクエスチョンである「現代の国民国家や民主主義社会の形成過程には、どのような問題が生じたと考えられますか」に関連する主要な問い(メインクエスチョン;MQ)を提示します。そのときのメインクエスチョンは、「国民国家の統一は、『良いこと』ばかりなの?」です。この問いを出して、生徒に1時間考えてもらいます。
武井先生
単元のなかの各授業では、講義をしたり、板書をしたり、授業によってはパワーポイントや映像を見せたりします。資料集を読み取ったり、教材として用意した課題に取り組ませたりして、メインクエスチョンを考えさせる時間を設けます。特に授業プリントのなかに設けている「課題」では、歴史的な見方・考え方を働かせながら、史資料を読み解くことができるような問いを設けるようにしています。

この単元では、東方問題とロシアの南化政策について扱う授業があります。ここでは「なぜ皇帝主導の改革には限界があったのか」という、民主主義の形成という視点で考察するメインクエスチョンにしていました。

ロシアについての授業では、板書プリントを配布しており、それをもとにパワーポイントを使って進めます。講義を進めるにあたっては、例えば、ロマノフ朝の領土がどのように拡大したのかを地図に矢印を引かせたり、二次資料も読ませて考えさせたりする時間も設けます。

実際の単元学習シートでは、「なぜ皇帝主導の改革には課題があったのか」といった問いに対して、「皇帝主導だと改革のメンバーが貴族や地主などの人達だけになり、その人たちの都合のいいようにいろいろな政策が反映されていく。それだと農民や国民などが納得するわけがない。その結果、人々の皇帝への憎しみがわき、一揆などの反乱を招いた。なので皇帝主導では限界があった。」ということを生徒が書いています。こういうふうに書いてくれると、最初のエッセンシャルクエスチョン(「現代の国民国家や民主主義社会の形成過程には、どのような問題が生じたと考えられますか」)につながり、皇帝主導から民主主義に移行していくという歴史につなげることができます。

メインクエスチョンの考察は授業の最後5分前後で書かせます。この単元が終わると、最後にエッセンシャルクエスチョンの考察と自己評価を宿題として、一週間ほどで取り組ませます。
進行役
授業を設計されるときは、どういった手順で(いつ、どのように)構想を練っているのか教えてください。
武井先生
さきほどのロシアの授業もそうだったのですが、新学習指導要領を参考に作ることが多いです。新学習指導要領は、「○○をもとに■■を理解する」と書いています。

従来の授業は、「○○をもとに」の部分を板書しながら説明するという授業だったと思いますが、それはあくまでも「情報」にすぎません。身につけさせたい知識は、例えば上記の単元学習シートでは、「国民国家と近代民主主義社会の形成を構造的に理解すること」です。情報の部分を授業で扱って、最終的には「国民国家と近代民主主義社会の形成」を構造的に理解すること、が到達目標となっているのです。ロシアの例では、自由主義とナショナリズムの項目に「ロシアやオーストリアにおける皇帝主導の改革とその限界、この時期に社会主義思想が広まり始めたことなどに気付くようにする」と書かれています。

ロシアに関しては、いかに東方問題と南下政策を説明するかというところに関心がいきがちですが、そうではなく新指導要領の文言に即して授業の内容を考えています。ストーリーを重視するのなら、「なぜ南下政策をしたのか」「なぜ南下政策の結果イギリスと対立したのか」「南下政策はうまくいったのだろうか」などといった問いを作って考えさせたいのですが、授業で到達したいゴールにあわせて、問いと扱う資料を選んだ形です。

02. 生徒に身に着けさせたい「力」とは

多面的・多角的な考察という視点から歴史を捉える

進行役
世界史(もしくは歴史)の授業ならではの生徒に身に着けさせたい「力」とは何でしょうか。また、実践のなかで生徒に身についた「力」はどのようなものがあったでしょうか。
武井先生
実はそれがわからなくなっている、というのが正直なところです。学べば学ぶほど、「歴史的思考力とは何か」がわからなくなってきました。因果関係、影響、比較、事象相互の関わり、多面的・多角的な考察という視点から歴史を捉えてほしい、歴史家のように史料を批判的に読み解き、いわゆる歴史的エンパシー(他者への共感)の読み取りを働かせてほしいといった、身につけさせたいと思っている力はあるのですが、実際の授業案に落とし込めることができたのかすごく悩んでいます。

感覚的には、1年間を通して生徒をみると、より多面的・多角的な見方ができてきているように思いますが、実際にはそれをはかる術はありません。自信をもって、その力が身についているとは言いにくいところがあります。

進行役
探究的活動を重ねることにより、生徒の世界史への関心は高まっていますか。3年生になったときの受験勉強に繋がっていますか。
武井先生
世界史への関心が授業によって高まったかはわからないのですが、授業アンケートによる生徒の評価では、「授業がおもしろい」という声が多く、93%以上が授業に満足しているという結果が出ています。
受験に関連して言うと、暗記が不得意だけど世界史の授業に熱心に取り組む生徒で、考察して記述することが得意な生徒がいました。その生徒は、世界史の授業を受けることで、自分の能力の向き・不向きを客観視する機会になったようで、小論文を用いる入試で第一志望の難関私大に合格しました。そういう生徒を見ると、「概念的理解を求める」、「限られた時間のなかで書く」、「様々な資料を読み取って立論する」など、世界史の学習の成果が、進路学習にもつながってくれるといいなと思いました。少なくとも暗記一辺倒だとはかれない力があるということを再認識しました。
進行役
他校の事例や書籍、研究会など、授業案を考える際にどのようなものを参考にされているでしょうか。
武井先生
私は研究会に参加することが大好きなので、研究会はもちろんのこと、全国歴史教育研究会、地域の歴史教育研究会(埼玉や愛知)に参加しています。特に高大連携歴史教育研究会で学んだことは授業に強く反映されています。高大連携歴史教育研究会の教材共有サイトには、優れた実践が数多くアップされていますので、そこから着想を得ることがあります。私の教材もそこに沢山アップしています。
こういった場所などにアップすると全国の先生方から授業に対する意見もらえるので、その意見を自分の授業改善につなげています。

他にもSNSで全国の先生方と交流しており、Twitterの「オンライン歴史総合・探究研究会」からは毎回刺激を受けています。先ほど紹介した単元学習シートも、その研究会の報告から影響を受けて導入しました。

03. 本質的な理解に到達する「知識構成型ジグソー法」

関わり合いを通して一人一人が学びを深める学習方法

進行役
「知識構成型ジグソー法(※東京大学CoREFが開発した、関わり合いを通して一人一人が学びを深める学習方法)」を取り入れられている経緯や理由を教えてください。
武井先生
埼玉県は東京大学CoREFと連携して、初任者は「知識構成型ジグソー法」の研修を8回受けることになっており、2回以上「知識構成型ジグソー法」を使った指導を行うことになっています。2年目以降も継続して研修を受けるなかで、学習科学の知見を学び、「知識構成型ジグソー法」が、理解を深めるために向いているということがわかってきました。

自治体との連携による協調学習の授業づくりプロジェクト
「協調学習 授業デザイン ハンドブック 第3版 ―知識構成型ジグソー法を用いた授業づくり―」(2019、pp.16)
白水始、飯窪真也、齊藤萌木、三宅なほみ著(最終閲覧2021.3.12)

武井先生
知識のレベルには3段階あり、レベル1の知識は、学習者一人ひとりが作ってきた知識で、これは経験的に習得されている知識です。 例えば、「歴史」といったとき、最初に日本の歴史を思い浮かべ、「日本人」の歴史がずっとあったんだ、という認識を、多くの人が無意識に習得しています。それはマスメディアの影響もあるし、小学校・中学校で「歴史」として学んできたものは、そのほとんどが日本の歴史だったので、「日本人の歴史」というものがずっとあるんだというふうに認識しています。

ただ、教師が教えたいレベル3の知識は教科書に載る知識です。国民国家というものは近代の産物であって、それ以前に「私たちは日本人」というアイデンティティを持っていたわけではない。民族というものも近代以降に認識されていくもので、伝統も「創られた伝統」という表現があるぐらい、ナショナリズムは近代以降のものである、と理解させることがゴールだとします。これを教員が、「国民国家は近代以降の産物である」、「国民国家主観にとらわれてはいけない」と説明しても、生徒はその場ではわかった気になりますが、レベル1で習得した知識を吟味や再検討、内省する機会がないので、教師が教えてもすぐに忘れてしまいます。世界史の知識は、受験が終わったら、全部忘れていく生徒が多いですが、これはレベル3の知識を丸暗記しているからといえます。どうやったら本当に理解できるのか、自分の言葉で説明できるようになるのか、と考えたときに、レベル3の知識と、レベル1の知識をつなぐ、レベル2の知識が必要となるというのが学習科学者たちの見解です。レベル2の知識とは、「他者が持っている知識も統一的に説明できるような、少し抽象的で視野の広い知識」と説明されます。要は、生徒同士が対話していくことで、少しずつ理解が深まり最終的にレベル3に到達するという学びのモデルがあるということです。

「知識構成型ジグソー法」は、レベル2に手厚い授業です。例えば、「なぜ鮮卑という民族は髪形を変えたのだろうか。」という課題を出したとします。そのときに、生徒は、髪型というのが「文化」だと認識し、その文化が変容するということは、はく奪されたのではないか、あるいは流行だったのではないか、と仮説を立てるかもしれません。でも最終的には、「遊牧民が農耕社会に適応するために、自ら髪形を変えていったのだ」ということを、習得させていくことが必要です。そのために、それぞれに異なる資料を与えます(エキスパート資料)。A遊牧生活をする鮮卑、B農耕生活に適応する鮮卑、C孝文帝の漢化政策、というように。ジグソー活動では、異なる知識を持っている生徒同士が話すと、「自分の考えていることと違う」「あの子は僕の知っている知識とは違う知識を持っている。じゃあ質問しよう」となり、対話が促されます。逆に、「持っている知識はみんな同じ」と生徒が勘違いしていると対話は促進されず、レベル2の知識が構成されません。生徒は対話のなかで「鮮卑は、農耕民族と融合するなかで、文化を自ら変容させていったのだ」という、レベル3の知識に到達するのです。このように、「知識構成型ジグソー法」を、理解を深めるために用いています。

進行役
知識構成型ジグソー法における評価はどのようにされていますか。
武井先生
単元学習シートに書いた内容を評価しています。評価に関して、総括的評価も重要ですが、形成的評価がより重要だと思っています。総括的評価は、生徒が「できるようになったこと」をはかるというもの。しかし重要なのは、授業を通して、生徒が「何ができるようになったのか」を、生徒の学びの事実から見取り、それを教師が次の授業に活して、「できるようになった」ことの幅を広げていくことだと思います。どちらかというと形成的評価をメインでやっています。生徒の学びを見取って、「これが書けていないな」ということがあれば、次の授業で補足してあげたり、逆に授業者のねらいよりもよくできていれば、もっと高度な内容に発展させてあげたりと、1年間をかけて、生徒のできる・できないを見て、授業のレベルを微調整していくということを行っています。

わかりやすい例として、「国民国家と民主主義」の前の単元の最後に行った授業を紹介します。産業革命から二月革命までを扱う単元で、そのまとめとして「近代化」とは何かを概念化させる「知識構成型ジグソー法」を行いました。そのなかで、生徒はこのような内容を書いてくれます。

武井先生
すべての生徒にいえることですが、「国民」としての意識が芽生える、そして国民国家ができることが、無条件に良いことだと認識していることがわかりました。もちろん良い側面も多分にあります。しかし、「国民ではない」と認定された人たちが、同化されたり排除されたりするところも授業で扱っていましたが、生徒からはそういった記述がまったく出てきませんでした。レベル1の経験則のままステップアップできなかった典型でしょう。そこで、次の授業では問いを変えました。「国民国家の統一はよいことばかりなのか」と。元の問いは「分裂していた国はどうやって統一したのか」で、この問いによって、イタリアとかドイツという分裂した国が、下からの統一ではだめだったから、上からの統一にしていくことを中心に理解させ、その過程で、アルザス・ロレーヌ問題などのように、いわゆる同化の問題もはらんでいく、ということにも気づいてほしいと考えていました。

しかし、先の「知識構成型ジグソー法」による生徒の学びの事実を鑑みるに、その問いだときっと「統一が遅かったことが問題だ」とか、「国民として一つにまとまれないこと自体が問題だ」という認識で終わると懸念されたので、「いいことばかりじゃないですよね」というすごく直接的な問いにしました。生徒に同化の問題、国家として一つにまとまることで、マイノリティがないがしろにされるケースがあるということを捉えさせようとしたのです。これはまさに、一応の授業目標を予め設定し、生徒の学びの事実を受けて、形成的評価をし、次の授業に活かして、生徒ができるようになったというのを積み重ねていく、授業改善のプロセスだと思っています。

進行役
知識構成型ジグソー法のような活動が苦手な生徒には、どのようなフォローを行っていますか。それによって生徒は主体的に授業に取り組めるようになりますか。
武井先生
アクティブラーニングというと、声の大きな生徒が評価され、寡黙な生徒は主体性がないと低評価がつけられることがありますが、実は違います。文科省が定義する「主体的な学び」は、学びをよりよくしようとする態度ということになるので、対話の多寡で評価すべきではありません。「知識構成型ジグソー法」のような対話的な学びで、対話をすることが苦手な生徒でも、静かに学んでいるケースもあるということが明らかになっていますので、対話が苦手な生徒には、対話を促さなくなりました。一方で、この手法は対話をしたいと思う環境を整えることができるので、多くの生徒が対話をしてくれますし、対話のなかで自らのつまずきが解消される機会が多く、生徒の「分かった」につながりやすいです。そうなった時、生徒は自信を持てますので、例えば大人の前で話すと過呼吸になる生徒がいましたが、クロストークで生き生きと発表してくれたことがありました。この手法は、そういう学びが苦手な生徒でも効果を出せる手法だと思います。
進行役
「知識構成型ジグソー法」について、課題はありますか。
武井先生
以下の2点が課題と感じています。

1.難易度の設定が難しい
2.学びから逃走する生徒がいると、他の生徒の学習を阻害する

1点目の難易度については、形成的評価で、生徒の状況を見ながら変更していく必要があると感じています。
2点目については、大変難しいと感じています。寡黙だったとしても、他の生徒に迷惑がかかるので、最低限自分の資料の内容を伝えようとします。ところが、学びから逃避している生徒は、他の生徒から資料に何が書かれているのかを問われても、それに答えないというケースがあり、他の生徒の学習を阻害するということがあります。こういう生徒は本当に少数ですが、この手法の最大の課題だと感じています。「知識構成型ジグソー法」では、理論的には、「全員がわかりたいと思える場面を設定すること」とされています。しかし、その場面設定こそが難しいと感じています。
進行役
授業で探究的な活動に取り組んでいくうえで、気を付けるべき点はありますか。
武井先生
生徒自らの関心に基づいて問いを表現したり、調べたり、表現したりする学習を行いたいと思っています。生徒自身が、問題を設定する・問いを表現することは、歴史総合を見据えて、近代化や大衆化の授業で何度か取り組ませています。それに取り組んだところ、生徒は思った以上に資料を読みとれるし、問いを表現できると感じています。ただ、現代的な諸課題を意識しすぎると、公民の授業になるということに気づきました。世界史では、現代的な課題に関わる「歴史の理解」に重点を置くことが大事だと思っています。例えば、今の日本は、ジェンダー格差が根強くあります。日本では女性差別が見られるということを扱いたいのですが、世界史ではジェンダー格差が形成されていく「歴史」に焦点を置く必要があります。現代の課題は公民で学ぶという、カリキュラムマネジメントが大事だと思いました。

調べ学習も、ネットや1冊の本をまとめるだけでは、成果物は立派に見えても、学びの質は低いと思います。生徒の既有知識を出発点に、本やネットの情報を読むなかで歴史的事象を多面的・多角的に捉え、レベル3に至る知識を生徒が理解し、それを表現した成果物になってほしい。しかし、どうしても、発表のための調べ学習になってしまいます。どうすれば生徒が「学ぼう」、「調べよう」と思って実際に調べることができるのか、その手立ては勉強中ですが、意識していく必要があると思っています。

進行役
今後、こういうことに取り組んでいきたいという思いなどがあればお聞かせください。
武井先生
生徒が学ぶ意義を感じられる授業に取り組みたいです。いわゆる真正な学びの実現です。私の授業は、学習指導要領を出発点にしていますので、授業展開も通史の枠組みを打ち壊すものではありません。その結果として、問いが指導要領に制限されていますので、果たして生徒にとって、真に学びたいものなのか。そして、その考察を現実の社会で実用することができるのかと問われたら怪しいと思います。生徒は学ぶ意義を持てないまま、「評価されるからそれを解かざるを得ないんだ」という構造になっていると反省しています。その問いを考察することで、意義を意識してほしい。民主主義社会やグローバル社会を主体的に生きる市民を育成するような、授業に取り組みたいと思っています。

世界史という学習は、異なる時代の異なる地域の歴史を学ぶ科目です。その知識を得ること自体が、多文化理解につながると思います。歴史学の成果の知識を学べば学ぶほど、思考の枠組みが広がります。例えば、ヨーロッパ中心史観など、現代を生きるためのまなざしとしては、芳しくないモノの見方をとっぱらうことにつながると思います。生徒に概念的に学ばせたいと思うからこそ、自分自身も教科内容の専門性を高めていきたいと思っています。

※埼玉県立与野高等学校 武井 寛太先生

学校紹介

埼玉県立与野高等学校
平成29年度に創立90周年を迎えた伝統校。「二兎を追い、獲得する」をモットーに、勉学と部活動・生徒会などの諸活動のどちらにも熱心に取り組み、一人ひとりの進路実現と想像力や包容力といった豊かな心を育むことを目指している。

編集後記

地歴公民編集
川野

これからのグローバル社会を生き抜く市民として、生徒に求められる資質・能力とは何であるのか。そして、「世界史」という科目が、その資質・能力の育成にどのように寄与していくのか。歴史科目の授業が目指すべき方向性を教えていただいたように思います。
新課程で大きく科目が変わる地歴公民ですが、そのなかで目指すべき授業の姿を、武井先生の授業から学ばせていただきました。先生自身も悩みながら、日々授業を変化させている姿が大変印象的でした。快く取材にご協力いただいた武井先生に感謝申し上げます。


2021年3月 取材
2021年4月2日 公開

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