指導事例【低学年】低学年指導 座談会 第三回

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指導事例【低学年】低学年指導 座談会 第三回

指導事例 vol.028

さまざまな学校課題や指導テーマに対して指導を工夫されている先生方に取材を行い、その実践をご紹介する連載企画「指導事例」。

一年を通じた低学年指導についての状況やご指導事例をお伺いするため、2020年度に高校3年生を指導された、2021年度に1年生ご担当の先生方3名による年間3回の座談会を企画しました。最終回の今回は、二度の共通テストを見ての課題と今後の指導についてお話をうかがいました。低学年からの共通テストを見すえた指導のご参考になれば幸いです。

【低学年】低学年指導 座談会 第三回

平野 優先生
岡山県立岡山操山高等学校 教諭。国語(漢文)指導担当。
教職歴15年、同校に赴任して10年目。現在は1学年の漢文をご担当。ICT活用を軸に生徒の主体的な学びと教師の持続可能な働き方をいかに両立するかを模索されている。地域の教育者同士で作る研究サークルにも所属し、学校現場でのICT活用に関わるセミナーの企画・運営に力を注がれている。

渡邊 翼先生
神奈川県立鎌倉高等学校 教諭。数学指導担当。
教職歴11年、同校に赴任して3年目。現在は1学年の数学Ⅰ・Aをご担当。
進路指導を通して生活指導や生徒指導ができると考えており、生徒には「部活動・行事」≒「勉強」とし、 “自己開発” に努めるよう促されている。その中で、生徒自身が自ら課題を見つけ、自ら解決できる力を育成されている。また、県内の先生方との勉強会を定期的に行い自己研鑽に励まれている。

佐藤 俊作先生
大分県立大分舞鶴高等学校 教諭。英語指導担当。
教職歴23年、同校に赴任して4年目。現在は高校1年生をご担当。前任校では学年主任や進路指導主事を担われた。システマティックで効率的な、チームで共有できる英語指導法の確立に尽力されている。石黒文雅先生をはじめ、県内外の指導者による研修会に頻繁に参加し、常に自分の指導法に改善を加えられている。

01. 2度目の共通テストから指導への反映

「自分ごとにさせる」「思考力を養う」がキーワード

進行役
(2022年)1月には、2度目の共通テストがありました。中身の議論は置いておいて、今後の指導に影響がでそうなところを教えてください。また、これまでの指導で間違っていなかったと感じた方向性もあればお願いします。
佐藤先生(英語)
英語の共通テストに関しては、昨年と大きな変化はないと感じました。共通テストの形式に慣れることは大切ですが、加えて個別大入試の対策に時間を割きたいと考えています。個別大入試のようなアカデミックな文が読めれば、少し対策をするだけで共通テストの日常的場面の問題は難なく解けるようになると思います。
渡邊先生(数学)
数学の共通テストに関しては、2年目になって難しくなると考えてはいましたが、予想以上に難しかったですね。あの問題では解答時間が足りないのではないか、という印象でした。
これまでの指導の中で共通テストに繋がっていた方向性は、「思考力を養っていくこと」だと思います。
平野先生(国語)
国語の共通テストは昨年に近いと思います。生徒どうしの会話や学習活動といった場面設定の出題がありました。
また、生徒にさまざまな学習活動を「自分ごとにさせる」ことが非常に大事だと改めて感じた試験でした。そのために、教員が「こういうお話でこうやって読む」というような「伝える指導」のウェイトを減らし、生徒たちが自分で考える時間とアウトプットの時間を確保することが今以上に大切になってくると感じます。その過程でICTの活用は不可欠ではないでしょうか。

生徒どうしの共有(教え合い・学び合い)など、教室でしかできないクラス集団ならではの授業にしていきたい

進行役
今年度(2021年度)3年生を受け持った先生方から共通テストのお話を聞くと、「気付く」「気付かない」で差がついたという話が特に国語や数学から出てきました。この点はどのようにお感じになりましたか?
渡邊先生(数学)
そのような面は、多分にあったと思います。いわゆる参考書をガチガチにやってきている生徒は解きにくいのかなという印象を受けました。思わぬところから投げかけがあるので、文脈を読み、本質を押さえていけるかが今回は必要だったと感じます。
その力をつけるには平野先生がおっしゃるように、教員がこうだと「伝える授業」ではなく、生徒どうしの共有時間が今より必要になると感じます。問題演習は自宅でもできるので、40人でしかできないことを教員側も提供していかなければいけないと感じています。
平野先生(国語)
確かに「気付く」「気付かない」は共通テストの根底にあるもので、国語の場合は(出題者を自分と別の世界の存在と考えず)人間的な共感がなければ作問の意図はわかりません。これを身につけるには、さまざま学習活動を他人事にさせない工夫が大事だと感じます。

日ごろの指導から徐々に共通テストの解答速度に慣れる

進行役
共通テストに関して、制限時間内で解くには厳しくも感じました。スピード処理能力や時間への対応についてはどのように指導に取り入れていますか?
佐藤先生(英語)
英語はスポーツや音楽と一緒で、毎日の積み重ねが必要なので、低学年から時間を意識させたトレーニングをしています。例えば、定期テストは「できる生徒がぎりぎり間に合う時間」に設定しています。時間配分も考えることのできる問題にしているので、これを3年間続けて根本的な速読力と戦略的に解く力を徐々に力をつけて行こうと取り組んでいます。
渡邊先生(数学)
授業で意識しているのは、生徒が自分で考えることです。問題を見たときにどう解いていくかの方針を決める時間を取り、まわりと共有させます。初見の問題への反応速度は、トレーニングで上げていけると思います。また、その中でさまざまな別解に触れる必要性も増していると考えています。
平野先生(国語)
本校では、実力テストと模擬テストを3年間で10回作問しています。国語の実力テストは110分の記述問題で、評論4000~4500字、小説5000字前後、古文1000字弱、漢文200字前後で作成しているので、生徒たちはこれを時間内で読みこなして解いていかなければなりません。生徒はこの実力テストで鍛えられ、解答スピードが上がっていると感じます。国語に関しては、共通テストの素材文自体は難しくありませんので、スピードよりも、対話的に読んでいく姿勢を養っていくことが大事だと考えています。

02. 1年1月模試の位置づけ

1年1月模試は教員側も授業を見つめなおす機会

進行役
共通テストが終わって1年1月模試がありました。この模試の位置づけはどのようなものでしょうか? 指標などもあればあわせてお願いします。
佐藤先生(英語)
以前、『秋の模試では指導した成果が出てくるので、秋で上げるのはセオリーだ』とお話ししたと思います。秋で結果を分析し、冬休みにそれぞれの課題に応じて補強できているかを1月模試では見ていきます。また、より正確に実力を図るために、秋(11月模試)と1月模試の2回を総合して、生徒の課題を把握する材料にしています。
渡邊先生(数学)
1年1月の模試は、1年間の学習方法の振り返りができると思っています。また、ここまでには模試に対するルーティンも持ってほしいと思っています。例えば、出題範囲を見て目標点を決め、計画を立てる。そして模試の受験後は、できた問題、できなかった問題やわからなかった問題を確認して次に備える。このような姿勢が身につくと学年が上がってから苦労しないと思います。
平野先生(国語)
1年1月の模試は、1年生の指導が身についたかどうかを見ることのできる指標になります。文理選択も終わって、高2の7月模試に向けて授業を見つめなおす機会にもなります。また、1月模試は共通テストと同じ日程で実施するので、当日共通テストを受験している3年生の話もして受験への意識づけもしています。

03. 1年3学期の指導について

課題テスト・実力テストの実施、意識づけなどさまざまな工夫も

進行役
1年生の3学期は生徒との接点が減り、手が届きにくい時期かと思います。指導のキーとなる行事などはありますか?
佐藤先生(英語)
3月の高校入試休みは土日もいれるとまとまった休暇になります。本校ではここで課題を出し、入試休みが明けたときに国語・数学・英語の三教科は試験を実施します。英語は、入試休みと春休みの二段階で、問題集を使った総復習をすることで完全に文法を習得させます。
入試本番当日まで、音読を復習のツールとして実践します。単語は、覚えてもまた忘れるということに意外と生徒は気づかないので、一日何十個とメンテナンスをすることを大切にしています。
渡邊先生(数学)
1年の冬休みあたりから、生徒の学習意欲は低下していきます。もう一度、入学時の感覚を取り戻してほしくて、高校入試休みは自らの高校入試時を振り返ることもします。また、2年生に向けて、各教科で今やっておかなければならないことも伝えておくようにしています。
平野先生(国語)
共通テストを踏襲して、2月の頭に実力テストを実施します。本来、コロナがなければ部活動もありますが、今は1月から部活動が休止しています。部活動に打ち込むから勉強も頑張れる部分があり、勉強しかする場がない今は、生徒からしてもきついと思います。

04. 春休みの位置づけと指導

入試休みでできなかった部分や復習をする春休み

進行役
春休み位置づけと、取り組ませておきたいことを教えてください。
佐藤先生(英語)
春休みは、入試休みでできなかった部分をリカバーする期間だと思っています。しかし文法以外は生徒には自由度を与えています。
渡邊先生(数学)
春休みだけではないですが、1年間の総復習はしてほしいと思っています。また、数学はⅠAがすべて終わっているので、思考の流れを確認するためにもセンター試験時代の数学ⅠAの過去問を解かせてみようかと思っています。
平野先生(国語)
春休みは生徒に任せている部分が多くて緩めです。また、本校では、1年次に『総合的な学習の時間』があり、総合学習の担当教員がいるので、総合学習の春休みの課題は班の担当の教員が出すようになっています。

05. 2年生の展望

2年生では必要な負荷を増やしていく

進行役
2年生の指導はどう変わるか・継続していくかの観点で、指導や展望をお聞かせください。
佐藤先生(英語)
1年生では、最重要項目に絞って英語学習における根底の力をつけてきました。しかし、まずは長文読解量が不足しているので、2年生以降演習量を増やしていこうと思っています。読むほどに、聴くほどに、書くほどに、自分の力の上がっているという実感を生徒にしてほしいと思っています。また、1年生はできるだけ負荷のかからないようにしていましたが、文理や習熟度のコースが確定している2年生ではボリュームを増やし、負荷をかけていきます。
渡邊先生(数学)
本校では、2年生の冬休みに『第一希望宣言』をさせます。それまでにどんな進路を選ぶのかを自分で考えます。同時に学習面では、志望大の入試過去問の演習予定や志望校の配点などから学習スケジュールを逆算して計画を立てさせます。保護者にも進路説明会を実施し、生徒には節目で全体と個別に話します。早く進路を決めて、早く突き進んだ方が結果的にいい数字結果がでるからです。
数学に関しては、1年生では思考力を養うことを多くしていました。それは2年生も継続しますが、記述指導もやっていかなければなりません。記述は一朝一夕に良い答案はつくれないので添削で指導していきます。
平野先生(国語)
漢文は1年生で基礎ができるので、2~3年生は他に時間をさけるようにして、漢文は慣らし運転でいけると思っています。1年生のときに言葉で考える、覚える感覚を身につけて筋力をあげていき、そこから落とさないというイメージです。その際、全部手で書かなくていいように、ICTの活用も考えています。冬休みや授業でもICTを活用しましたが、生徒たちはうまく使いこなしていると思います。
進行役
とても参考になりました。先生方、本日はありがとうございました。また、1年間ありがとうございました。今後もこのつながりも大事にしていきたいと感じています。

学校紹介

岡山県立岡山操山高等学校
1学年約270名、2020年度のおもな進路状況:国公立大148名、(うち難関国立大34名)

神奈川県立鎌倉高等学校
1学年約320名、2020年度のおもな進路状況:国公立大 36名(うち難関国立大 2名)

大分県立大分舞鶴高等学校
1学年約320名、2020年度のおもな進路状況:国公立大 225名(うち難関国立大 21名)

編集後記

営業企画
守安

先生方、1年間、誠にありがとうございました!
教育環境が変わっていく中で、これからの指導の在り方について意見交換をいただいてまいりました。これまでを洗練させる形で大事にしていくことと、変化に応じて対応させていくことが見えてまいりました。我々もその一助となれるよう、引き続き尽力いたします。

2022年3月 取材
2022年3月22日 公開

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