新高等学校学習指導要領『言語文化』のバトンをつなぐ 連載企画 第4回

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高等学校新学習資料要領 『言語文化』のバトンをつなぐ 連載企画 第4回

教育情報

2022年度よりスタートする、新「高等学校学習指導要領」。その中でも、国語の『言語文化』に注目し、ドルトン東京学園中等部・高等部の沖奈保子先生に情報や指導のポイントなどをまとめていただきました。全6回の連載でお届けする予定です。
第4回の今回は、「『言語文化』を読み解く」とは。共通テストの出題から考えます。ぜひ参考になさってください。

『言語文化』のバトンをつなぐ

沖 奈保子先生
ドルトン東京学園中等部・高等部 教諭(国語科/探究コーディネーター)。島根大学教育学部嘱託講師。「古典はおもしろい!」を合言葉に、古典作品と現代社会をつなぐ授業実践を日々模索中。
著書に『高校国語 アクティブラーニング』(学陽書房 共著)。他、『高校の国語授業はこう変わる』(三省堂)、『高等学校国語科授業実践報告集』(明治書院)等に授業実践を掲載。また、国立教育政策研究所『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』において、評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究に協力。

連載企画 第4回

「言語文化」を読み解くとは?

1.「言語文化」を読み解く――共通テストが目指すもの

2022年1月に実施された大学入学共通テストにおいて、第3問「古文」は複数テクストを比較する問題が出され、本格実施2年目にしてようやく、共通テストが問う「古典の力」の特徴が見えてきたように思います。

今回出題された第3問の文章は『増鏡』と『とはずがたり』です。鎌倉時代の歴史物語である『増鏡』で、後深草院が異母妹の前斎宮に懸想していることが語られ、続く『とはずがたり』において、その詳細が作者である後深草院二条の視点で描かれます。複数テクストから同一事件を捉えるという形式です。そして、設問についても文法単独での出題や傍線部の逐語訳が求められる出題は減少し、描写の特徴や内容を比較したり、登場人物の心情や展開に関する問いが出されました。

二つの異なるジャンルの文章の読解は、慣れていない受験生にとって負担が大きかったかもしれません。しかしどちらかが読めれば、読み取れなかった文章の内容を補えるので、大まかなあらすじ自体は読み取りやすかったのではないかと思われます。そして何より今回出題された部分は、物語に登場する男女の出会いから逢瀬に至るまでの典型パターンといえます。当時の男女がどのようにして出会い、逢瀬に至るのか。これまで授業などで読んできた類似作品を踏まえれば、登場人物の言動や心情の動き、この後の展開を予測しながら読めたのではないでしょうか。むしろ、共通テストではこのような既知の「類型パターン」を踏まえながら、内容を類推し未知の作品を読解する力が求められているように思えます。

2.古典作品にみられる「男女の恋愛」パターンは?――歌物語を読もう!

今回の共通テスト問題にみられるような、恋愛の典型パターンについて考えていきましょう。現代において、誰かを好きになったり、恋に落ちたりと、恋愛関係に至る過程には、さまざまなパターンがあります。幼なじみどうしの恋愛、クラスメイト、部活動の先輩や、ゲーム仲間、ネット上での出会いなどなど、出会い方もさまざまです。

しかし物語に登場する平安時代の男女の出会い方はそれほど多くはありません。当時、女性は血のつながった兄弟であっても、直接顔を合わすことはありませんでした。人目に触れないように、顔を扇で隠し、室内であっても不用意に人目に触れるような場所は避けて過ごしていました。そのため、男は女と一夜を共にするまで、はっきりと顔を見ることはありませんでした。

ちなみに、(2)の男が女に接近する場面、そして(4)において和歌が詠まれます。その時、和歌の優劣、返歌の有無、即応力などが問われ、贈られてきた和歌が、相手の教養や知性、風流心などを知る手段にもなりました。和歌が上手な人、筆跡が美しい人=高雅で優れた人であり、和歌が下手、字が下手な人=教養のない人、と判断されました。

上述のように、(1)~(4)の構成で、それぞれの物語が豊かに展開していきます。たとえば、「(1)男が女を発見する」について、外出中に琴などの音を聞きつけて、その音に誘われるようにして訪ねていくと、少し荒れた人目につかない屋敷にひっそりと暮らす姫君を発見したり、築地や垣根の切れ目からちらりと姿を見かけたり……といった偶然見かけるパターンや、「大納言が大切に育てている娘がいるらしい」「何人も娘がいる中で特に3番目の姫君が美しいらしい」「〇〇さんにとてもよく似た人がいる」といったように人づてに情報を聞きつけるといったパターンがあります。物語によって違いがありますが、いずれも男が女を見つけるところから恋愛物語はスタートします。それは現在の物語とは大きく異なる点です。

このように、古典作品に描かれる独自のパターンを知り、蓄積することで古文の読みを確かなものにできます。今回の共通テストでは、「古典の読解力」が、品詞分解、逐語訳などの精読ではなく、古典世界で描かれる人々の生き方や生活様式、社会構造や思想などを含めた、文化を読み解く力に変化していく兆しがみられたように思います。

3.授業事例:複数の古典の恋愛物語を読もう――文化コードを学ぶ

今回のような複数テクストの組み合わせには、日記×歴史物語はもちろん、説話×歌物語、軍記物語×史書・公卿日記、歌集×作り物語、などさまざまな可能性があります。古典作品について「知識」として網羅的に暗記するのではなく、作品と作品の関係をつなぎ合わせ複合的な視点で、古典の世界が読み込まれていく気運を感じます。

では、実際の授業の中でどのように作品を取り上げ、学習していけばよいでしょうか。授業者の教材研究力が必要になりますが、この際、生徒たちそれぞれに教材を発見してもらう、そんな学習はどうでしょうか?

実施時期 9月~11月
授業時数 3~4時間
単元目標 作品や文章に表れているものの見方、感じ方、考え方を捉え、内容を解釈すること。(思考・判断・表現「読むこと」(イ))
学習課題 『伊勢物語』から、男女の恋愛に関する章段を選び、文章に表れている男女の恋愛の特徴を捉え、当時のものの見方や考え方について考えを深めよう。

『伊勢物語』は、百二十五段で構成されています。それぞれ担当の範囲の中から取り上げる章段を決めてもよいですし、特徴的な章段を授業者がピックアップし、その中から生徒たちが選ぶのでもよいでしょう。複数の章段に触れながら、生徒たちが一つずつ選べるようにします。その章段の中で、男女の恋愛がどのように描かれているのか、出会いややりとりのてん末、主人公の心情などを相手にわかるように紹介します。第2回で紹介したようなスライド作成を行い、それをもとにクラスで交流したり、「私のお気に入りの章段!」と題して2分間スピーチを行ったりするのもよいでしょう。また、4コマ漫画にしたり、動画を作成して内容を紹介したりするなど、生徒の実態や学習環境に即した言語活動を取り入れ、当時の男女のさまざまな恋模様を会得していきます。そこには共通点があり、いくつかの悲恋のパターンが存在します。心に響く和歌との出会いもきっとあるはずです。

複数の章段を通じて、単元の最後に『伊勢物語』から読み取れる、当時の男女の恋愛観について自分の言葉でまとめるように促します。当時の恋愛が成立した背景には、どのような思想や社会制度が影響しているのか、考えを深めます。

一人一冊、『伊勢物語』を手にすることができるようなら、現代語訳を全部読んでみるのもよいでしょうし、「Japan Knowledge(ジャパンナレッジ)」にアクセスできる環境が整備されているなら、試しに利用してみるのもよいかもしれません。現代語訳を中心に扱い、発表の際に、原文の音読を取り入れたり、和歌を紹介するなど、古文特有のリズムを味わいながら取り組めるとよいでしょう。『伊勢物語』に描かれる情熱的な和歌の数々が高校生ならではの感性とピタッとはまる瞬間も期待できます。きっと楽しい実践になるはずです!

2022年2月14日 公開


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類似パターンの作品を比較しそれぞれの物語の違いを読み解く問題については、「Think and Questシリーズ」でも紹介しています。『キミが学びを深める国語2』に収録されているユニット「『盗む』男・『盗まれる』女」では、『伊勢物語』と『大和物語』に描かれる男が女を「盗む」パターンを紹介しています。なぜ類似の作品群が語られるのか、当時の社会背景を踏まえた物語読解ができます!

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