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  • ラーンズリポート Vol.4「新課程における世界史の指導について」 第二回「新課程を踏まえた世界史学習とは?」

特別対談「新課程における世界史の指導について」

※2014年4月より東洋大学附属姫路中学校・高等学校。

ラーンズリポート特別談話 Vol.4「新課程における世界史の指導について」

東洋大学附属姫路中学校・高等学校 黒河 潤二
兵庫県立長田高等学校で進路指導部,親和中学校・親和女子高等学校で進路指導部長・教務部長を歴任。2013年より東洋大学附属姫路中学校・高等学校に勤務し、現在は中高一貫コース主任を務める。モットーは「停滞は後退,つねに進化する授業づくり」。なお,進研「WINSTEP世界史B」のご執筆・監修にも携わる。


※この記事は2014年1月に掲載されたもので,「新課程」とは,2014年4月から実施されている「現行課程」を指しています。


第二回:新課程を踏まえた世界史学習とは?

教科書も新課程版の採択が始まっていますね?

黒河
 高校現場では,年々世界史の教科書を1冊やりきることが,時間的にも内容的にも大変厳しくなっています。多くの教科書は,ますます専門的な内容に傾斜しているのでは?と感じています。新課程版の教科書には,ルネサンスを「近代」ではなく「中世の終わり」ととらえているものも見られます。面白い見方ですが,この教科書に知的好奇心を持ってついてこられる生徒がどれだけいるのか?また,最近の教科書は「最新の研究動向を生かして新たな視点で歴史をとらえ直しました」という点が強調されすぎて,知的好奇心が広げられない生徒にとってはわかりやすい教科書になっていないのではないか,と感じることがあります。


黒河
 教科書がそうなってしまっている要因は,結局のところ大学入試が影響しているのではないでしょうか。教科書の内容を素直に問うのではなくて,そこから一ひねり,二ひねりして世界史をグローバルにとらえなければ解けない問題や最新の研究動向を如実に反映した問題,これらの問題に対応できる学生が欲しいという大学も増えてきています。こういった入試傾向に対応するために,教科書がますます詳しくなっていくという構図になっているのでは,と推測します。しかし,こうした入試問題や教科書に対応できる学力の生徒はわずかですから,世界史学習者のすそ野がますます狭くなっているというのが現状だといえます。


新課程移行にともない,世界史に求められる学習の変化は何でしょうか?


東洋大学附属姫路高等学校 黒河 潤二

黒河
 新課程移行にともなう変化として最も大きいのは,学習指導要領の目標「地理的条件や日本の歴史と関連づけながら」の部分への対応です。これまでも日本史や地理との関連は意識されていましたが,「必修科目である世界史を通じて日本史や地理もある程度しっかりやりなさい」という考えが明確に表れています。以前の教科書には,日本史の内容は世界と直結する内容だけ載っていましたが,新課程では日本史プロパーの内容が結構細かく書きこまれています。また日本史の先生が監修に入っている教科書も多く見られるようになりました。地理に関しても,各章の最初に地理的内容が出てくる。これから歴史を学ぶ地域の地理を教えたうえで,その地理的基盤の上に地域の歴史がどう展開してきたかをしっかり教えましょうというわけです。


新課程生の大学入試は2016年度からですが,大学側ではそれをどうとらえているのでしょうか?


東洋大学附属姫路高等学校 黒河 潤二

黒河
 入試問題の新課程対応については,多くの大学が「変わりたいけれど変われない」というところでしょう。さきほど述べた,最新の研究動向に沿って世界史をグローバルに見るような「ひねった」問題が解ける受験生はごく少数です。センター試験や大部分の大学は空欄補充や記号選択の出題が主となっているでしょう。それでもごく一部ながら新課程を意識した問題を作っている大学も見られます。例えば,大阪大(2013年度第2問)。各地域の経済規模(GDP推計)の推移が折れ線グラフで示されていて,中国・西欧・アメリカは記号A・B・Cで伏せられています。最初の設問では「西暦1000年前後のAにおいて経済規模拡大の背景となった社会経済の動態」について論述させています。「商業」「都市」「貨幣経済」「農業開発」という指定語句から,Aを西欧と思い込んで論述した受験生が結構いたようです。ところが後の設問(18世紀の清の発展を示唆)に取り組む中で実はAが中国であることに気づいて,後戻りして書き直した受験生が多いんですね。「問題は最後までしっかり読みましょう」というメッセージを含みつつ,グラフの読み取りとか,資料を活用する力を問うているんです。それに人口動態が扱われている設問には地理的要素が入っていますし,各地域の土地・農民の支配体制を比較させる設問では日本史の知識も問われています。他にも新課程で重視されている宗教(イスラーム)についての設問,資料を読ませて「アメリカ独立宣言」であると判定させたうえで宣言誕生の背景を述べさせる設問など,同時代性に着目した切り口も含めて,新課程的要素が詰め込まれた問題だと思います。宗教といえば,センター試験では2011年度から3年間連続して宗教に関する大問が設けられています。そういった意味では,新課程で重視される内容が出題される傾向はすでに始まっているともいえます。

黒河
 ただ,ギリシア・ローマの人名だけで苦労している生徒に,これだけの内容を指導する余裕がどれだけあるでしょうか。新しい学習指導要領の「内容の取扱い」に「各地域世界の人々の生活,宗教,意識などを具体的に把握できるようにし,政治史のみの学習にならないようにすること」とありますが,政治史に加えてこれらを生徒にどう教えるのかは大きな課題ですね。




「教科書学習の完成」と「入試基礎力の養成」はこれで決まり!進研WINSTEP
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新課程を踏まえた学習として,先生のお考え,また実行されていることがあれば,ぜひお聞かせください。
東洋大学附属姫路高等学校 黒河 潤二

黒河
 地理的な視点は一朝一夕には育ちません。まず,導入の部分で世界地図をしっかり押さえさせるのが一番の基本ですね。そして,授業中に地名が出てきたら必ずチェックする習慣を身につけさせます。同時代史は通史が終わってからでないと指導しにくいのですが,私の場合,同時代史の指導では地図ではなく主要な部分の概略図を生徒に描かせています。そして地図を見ながら各国の位置関係をとらえさせる。地図を見せるだけでは,生徒は何が重要かわかりませんからね。ただ,地図を描かせる,着色させるといった作業は,時間の確保が課題ですね。また,比較的学力が高い生徒に対しては,東京大の論述問題を使って概略図を描かせたりしています。タテヨコがうまく組み合わされた良問は授業のいいネタになりますね。


黒河
 資料の活用や言語活用の充実に関しては「調べ学習」の手法を採られる先生が多いようです。しかし,時間がかかりますし,インターネットにアクセスさせたら好き勝手なホームページを見て授業にならないとか,まとめさせても結局たいした成果はなかった,というケースも聞いたことがあります。一番手軽な方法はロールプレイングではないでしょうか。かつて中学で「惣村」の機能について授業したときの事例ですが,長と村人A・B・C3人の配役を決めて,シナリオを読ませたことがあります。その会話を踏まえて,惣村の決まりごとや惣村の形成による農村の変化について教科書の記述と引き比べながらまとめさせる,という授業を展開しました。こういう活動なら1時間の授業に15分ないし20分程度で差し込めます。高校世界史でも,例えば架空のストーリーを作ってワット=タイラーの乱がなぜ起こったのかを考えさせる授業などを展開できそうです。


黒河
 どの教科書にも載っている写真を使って,資料の活用や歴史的思考力に関連づけることができます。例えば,義和団事件の時の8カ国共同出兵の写真。なぜインド人兵が写っているのか,生徒に考えさせてみるんです。当時のインドはイギリス領ですが,イギリス本国の兵士だけでは足りなかったんですね。当時のイギリスは南アフリカ戦争に兵力を割かれていて兵力に余裕がなかったわけです。だから,中国に地理的に近いインド人の兵士を送った。一つの写真から同時代史的な広がりが出てきます。他にも,アウグストゥス像の足元にいるキューピッドの役割とか,ボッティチェリの「春」に描かれているオレンジの意味とか,生徒たちに興味・関心を持たせたり考察させたりするきっかけとなる教材はたくさんあります。また,写真・図版でなくても,レントゲンなどの人名やローマの暦など語源や起源にまつわる教材もありますね。異説は当然ありますが,歴史の研究をやっているのではなくて世界史教育をやっているわけですから,興味づけのために単純化してもかまわないのではないでしょうか。


黒河
 生徒たち自身が話し合いをしたり調べたりしなければ思考力や判断力は養われない,といわれますが,そうした活動の基礎となる興味づけをするのが教師の義務だと私は思います。そのための教材研究こそが世界史を専門とする教師の役割だと思いますね。ただ,今の世界史教育というのは「世界史全体をどう見るか」といった大上段に構えた見方が追求されがちで,生徒たちが本当に興味・関心を持ったり,考察したりできる教材が開発されているのだろうかという疑問があります。世界史学習者のすそ野が広がらない原因の一つはそこにあるかもしれません。「グローバル人材」というとまず英語力といわれますが,世界史の知識は諸外国の人々との有力なコミュニケーションツールになるでしょう。そういった意義も念頭におきながら,生徒たちに「自分の知的好奇心を広げたい」という意欲を身につけさせたいですね




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この度は,ラーンズリポートをご覧いただきありがとうございました。
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