新高等学校学習指導要領『言語文化』のバトンをつなぐ 連載企画 第5回

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高等学校新学習資料要領 『言語文化』のバトンをつなぐ 連載企画 第5回

教育情報

2022年度よりスタートの「高等学校学習指導要領」。その中でも、国語の『言語文化』に注目し、ドルトン東京学園中等部・高等部の沖奈保子先生に情報や指導のポイントなどをまとめていただきました。全6回の連載でお届けする予定です。
第5回の今回は、「古典文法」を楽しく身につける実践例をご紹介しています。ぜひ参考になさってください。

『言語文化』のバトンをつなぐ

沖 奈保子先生
ドルトン東京学園中等部・高等部 教諭(国語科/探究コーディネーター)。島根大学教育学部嘱託講師。「古典はおもしろい!」を合言葉に、古典作品と現代社会をつなぐ授業実践を日々模索中。
著書に『高校国語 アクティブラーニング』(学陽書房 共著)。他、『高校の国語授業はこう変わる』(三省堂)、『高等学校国語科授業実践報告集』(明治書院)等に授業実践を掲載。また、国立教育政策研究所『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』において、評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究に協力。

連載企画 第5回

「古典文法」をもっと楽しく!

1.「古典嫌い」は、文法が原因?

古典学習の入門段階ではまずは古典世界の面白さを味わってもらうことを第一と考え、現代語訳を用いたり、傍注のある本文を用意したりして、あえて古典へのハードルを低くしていると思います。例えば、「児のそら寝」の朗読劇をしたり、『伊勢物語』の地図作りをしたり…。現代の物語作品を味わうように、「面白い」や「できる」を積み重ねていき、興味関心を引き出していきます。

でも真に古典作品の魅力を味わうのに欠かせないのは、「古典文法」です。そしてこの「古典文法」が、古典嫌いを生んでいるという事実も無視できません。「文法を習う前までは古典が楽しかったのに…」という声もちらほら。ではどのように文法の壁を乗り越えればいいでしょうか。

2.古典文法の指導の実際 ―― 「きまり」は自分たちで発見せよ!

(1)「文法」は言葉のきまり

文法は言葉のきまりです。英語には英語の、フランス語にはフランス語のルールがあります。言葉は共通のルールに従って意味伝達を可能にしているわけですから、そのルールを知ることなしに、言語を理解することはできません。
例えば、車を運転するときに、交通ルールを知らないとどうなるか、想像してみてください。前に進むのもおっかなびっくり、おそらく目的地に着く前に、事故を起こすか、立ち止まって身動きができなくなってしまうでしょう。「古典」もそれと同じではないでしょうか。
古典作品を読む時に、ルールを知っていると、自分の力で自在に読み解くことができます。交通ルールを知っていればどこにでもドライブできるように、古典文法を知っていれば、初見の文章でも読みを切り開いていけます。
そして何より、古典文法を学ぶことは私たちが現在使用している日本語を知るために欠かせない学習といえます。日本語がどのような変遷を経て今に至っているのかを知ることも、「言語文化」の指導に託されています。「言語文化」を学ぶとは、その地域が持っている言葉を学ぶことです。古文を読むための古典文法だけでなく、古典文法そのものにスポットライトをあてた時に、文法学習は少し違う取り組み方になってきます。

(2)文法を学ぶ意義を説明できているか?

以前、「古典文法をなぜ学ばなければならないのですか?」と聞いてきた生徒たちとの対話の場面で、逆にこちらから質問したことがあります。「文法学習の何が、あなたたちに古典への疑問を抱かせたのか?」と。
するとだいたい同じような返答が返ってきました。

他にもまだありましたが、大方この3つが原因だとわかりました。そしてこう問われました。「古典文法はなぜ学ぶのですか? 現代語訳でいいじゃないですか。」

さてこれをお読みの先生方はどのように答えますか? 私は上記の「文法=きまり」の話をしたうえで、「古典を学ぶのは文章を学ぶことだけではなく、この1000年以上連綿と続く日本語の移り変わりを学ぶことなのだ」と語りました。これは授業者である私の決意表明のようなもので、残念ながら生徒たちを即座に納得させるには至りませんでした。そこで、まずは「文法嫌い」を生み出す①~③について解決していこうと考えました。

(3)ルールを発見する「古典文法MISSION」

先ほども述べたとおり、文法はルール、つまり一定の規則性があるものだから、一度覚えてしまえばとても楽です。しかし「来週までに覚えなさい」といわれてもなかなかやる気はでません。そこで、ルールを覚えるのではなく、ルールを発見し説明する活動を試みました。それが「古典文法MISSION」です。

まず4人班を作り、MISSION用紙を配布し、担当を決めます。この学習活動はいわゆる「ジグソー法」をイメージしたもので、全員の力が集まることによって、最終MISSIONがクリアになるものです。単元の前半はそれぞれが担当したMISSIONに関する情報を仕入れます。同じMISSIONを担当している人どうしで取り組んでもいいし、自分一人でやっても構わないことにしました。実際授業では、相談したり、文法書をみたりしてもわからなければ、他社の文法書や、解説動画など、何を見ても構わないし、もちろん「授業者」に聞きに来るのもOK! と伝えました。
そして自分で説明できるようになったら、別途配布した「本文」で、その法則性が成り立っているか確認してみるよう、促しました。

それぞれが担当するMISSIONの例です。この時は、

・品詞の特徴と違い ―― 国文法vs.古典文法
・活用形とその特徴、係り結びの法則
・動詞の活用の種類 ―― 国文法vs.古典文法
・形容詞の特徴と違い ――国文法vs.古典文法

を扱いました。中学の時に学んだ国文法と古典文法の違いを入れたのは、1000年以上たっても同じ構造であることを知ったり、古典から現代にかけて消滅していたり簡略化されていたりすることを生徒たちが発見してくれることを期待してMISSIONの一つにしました。ここで読むための「文法」だけでなく、文化としての「文法」に出会う機会を設けたわけです。

ちなみに今回は、年度初めということもあり、古典文法テキストの冒頭部分を扱いましたが、それぞれの進度によって、例えば「助動詞中心のMISSION」に変えてみたり、また既習事項の定着を図るため文法の復習として扱ってみたりするのもいいかもしれません。いずれにせよ、各自が担当した課題が生徒たちにとってチャレンジしたいレベル感のものがよいでしょう。

調査時間の後、それぞれの担当による説明を行います。その際、生徒たちが聞きながらメモを取れるような補助シートを準備しておくと、目的をもって聞くため、聞く力や内容理解力も高まります。
4人の発表が終わったら、最終MISSIONである確認テストを実施します。解き終わったら、まずは班の中で問題検討を行います。間違いに気づいた場合、その場で直してOK。ただし、直す場合には解答を消さず、赤以外の色のついたペンで訂正するようにし、自分の考えとグループで得た知識との違いが視覚的にわかるようにしました。

そして最後に答え合わせ。班員全員が当初設定した正答率を越えていたらMISSION CLEAR です。
グループ活動にすると授業時間がどんどんなくなりますが、文法MISSIONは一度チャレンジしてみてください。これまで機械的に暗唱してきた生徒たちが法則に気づいていく姿は心地よいものです。(実際には授業中に伝えていたものも多いのですけどね。)

3.まずは「ルールを知る」ところから

文法嫌いの生徒を中心に設計した授業でしたが、文法好きの生徒も実際には結構な人数います。法則を発見し、基本的なパターンを応用させていくことで暗記量も減るし、理解もスムーズです。理屈がわかれば、どの文章でもルールを使って読み進めていくことができます。丸暗記して暗記したそのままの形でしか使えない知識ではなく、なぜそうなるのかがわかり、法則がわかっていれば、暗記は徐々にでもよいのではないでしょうか。
むしろ、授業者側が、生徒たちに無理難題を押し付けているのかもしれません。ルールを知ることと、ルールを覚えることは労力に差があります。まずは知り、使っていく中で覚えていくのが理想的です。私たちも見慣れない道路標識を含めて全部覚えろと言われたら苦しいです。でも、「鹿」の警戒標識を忘れられないように、その生徒にとって心にすとんと落ちる「文法」があるかもしれません。そうやって、文法への忌避感を少しでも取り除いていきたいものです。

文法問題にチャレンジ!

参考:「進研WINSTEP Core 国語1 古典編[新課程版]」

2022年9月22日 公開


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